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サブタイトル「あのサッカーをやろう」
日本VSブラジル・後編
ベルナルドがひたすら哀れな回。

本編と関係ないけれど、オリオンの円盤1巻が届いたので満足。まだ充のつもりの一星が悪い顔していてほほえましい。
実は何も考えずに予約したからよもや12話も収録されているとは思わなかった。アレ天は9話区切りだったからお得感がすごい。
さっそく見てる(そのせいでまた感想を書くのが遅れる)けど、やっぱりオリオンは最序盤からかっ飛ばしてて面白い。毎話なにか予想外のことをしてきて楽しいし情報量が多くて何度見てもいいものだ。



 アバンは却下されるアルトゥール、反則プレイを提案する水神矢。
 水神矢は「フリだよフリ」と、前回の引きの引きたるゆえんを一蹴。うしろのアツヤが「は?」と言わんばかりのいい顔をしている。その意図は野坂が解説。「殴られたことのある者でなければ、殴られた時の痛さはわからない、ってことかな」
 水神矢、我が意を得たりとばかり笑う。

OP

 ヒロトとアツヤ、小僧丸と剛陣が交代。ポジションの配置が魚のような形。
 日本ボールで後半開始。
 イナズマジャパンの作戦は「反則をせずに反則に見せる」。できるのかと疑問に思う剛陣に対し、アツヤは「ま、ホントに反則になっちまうことも、あるかもな」と悪い顔。そうそう、このテンションで行かないとフリは上手くいかないものだ。
 攻めるブラジル。日本は一人に対して三人で行く。手前の灰崎が楽しそうな顔をしている。さすがフィールドのチンピラその1。
 水神矢と剛陣が、サムエウを左右から挟むように駆けあがり、アツヤがヒロトのオーストラリア戦の「ああ悪ぃ」を思い起こさせる横切り方をする。倒れるサムエウ。水神矢と剛陣、謎ポージングでアイコンタクト。
 アツヤが煽る。「お得意のフィジカルはどうした?」
 水神矢は「楽な仕事だな」と、テグスのようなものを口で引っ張って見せる。どこからどう見ても必殺シリーズのパロディ! SEまで似ている。わざわざ仕事なんて言ったのも仕事人ネタですよと言いたいからだな。シャッチョさんの世代がにじみ出た小ネタだ。せっかくだから次は剣客商売ネタを入れてくれ。
 驚きのあまりか、サムエウは呆然としたまま立ち上がらない。
 剛陣がアツヤに近づく。「上手くいったのか?」答えは表情が物語っている。「水神矢か。アイツ、たいした役者だぜ」
 豪炎寺が解説。「ブラジルの選手たちに、日本も反則をし始めたと思わせる。面白い作戦だな」
 ブラジル勢がこの臭い芝居を本物の反則だと誤認するなら、根拠は確実に、自分たちが後ろ暗いことをしているからだ。もし自分をシロだと信じていたなら、日本の慣れない小細工なんかすぐ見抜くだろう。
 杏奈は少し不安そう。「うまくいくでしょうか」
 析谷が補足。「向こうにも勘のいい奴はいる。どこかで気づかれるのは間違いないだろうね」つくしが「そんな」と言うが、実際の作戦の意図としては気づいてもらわなくては困る。
 サムエウとロランは、日本がそんなことをするわけがないと勝手に納得。その後ろでアルトゥールは無言。
 ブラジルはパスを回して、ミゲルのシュートチャンスを作る。アツヤがスライディングで阻止をはかる瞬間、スパイクの裏が光る。ぎょっとするミゲル。アツヤはしれっと「ちぇっ。惜しかったな」と、ここを見てくださいと言わんばかりにサッカーシューズを撫でる。
 アツヤは、ミゲルの「いま、何しようとした」にたいして、まるで雷門VS白恋で雷門をひっかきまわした時のように、わざとらしい口調で「さあ、なにかなぁ?」ととぼける。
 ルシアンがミゲルの消極的な動きを指摘するが、ミゲルは「あいつら、どうやら報復するつもりだ」と、まんまとアツヤの芝居に引っかかる。
 灰崎がロランのボールを弾く。倒れるロランに対し、灰崎は実に楽しそうに「フィールドが滑るのはわかってんだろ、バーカ!」と、どこからか取り出した茶色の小瓶を振って見せる。中身はなんだ、胡麻油か? 水神矢のテグスといい、いつ用意したんだ。
 実況解説の席からは、ややラフなプレーが増えてきたように見えている。
 解析担当の析谷、日本の狙いを視聴者に説明。わざとやったようにもとれるシチュエーションが来たら、偽の小道具を見せびらかす。観客席の紀村もこの推移を見守る。
 ミゲルたち偽の証拠を見せられた三人は、イナズマジャパンの演技を信じ始めていた。一方、ダニーニョはいまひとつ信じきれない。「でも、あんなにいいサッカーをするやつらが反則するとは思えない」「それなら、オレたちだって普段はいいサッカーだろ」「たしかに、そうだな」この会話の自分たちのプレーに対する謎の自信は外国人っぽい。本番でやらない良いサッカーとは。シュレディンガーのプレースタイルか。
 ミゲルは自分たちの状況を重ねて、日本にも従わなければいけない上司がいるのかもしれないと予想する。
 一星のスローイン。明日人が走る。マセウスとすでに騙されかかっているサムエウがつこうとするが、アツヤが間に滑り込み、ソールで光る「22」を見せつける。アツヤの背番号だ。ひょっとして、会場で売ってるアツヤのグッズでも分解してくっつけているのか?
 まんまと引っかかったミゲルが警告する。警告に耳を貸してしまったばかりに、つい足を止めてしまう二人。剛陣を経由したパスであっさり抜かれる。どういうわけか他のディフェンダーも棒立ちでアツヤにシュートチャンスを譲る。
 アツヤのシュート技「必殺クマゴロシ・斬」。対抗はマセロのキーパー技「マカロニスパゲッティ」。アツヤのシュートがゴールに突き刺さる。
 2-2に戻した。アツヤは「どうだ! オレの熱いブリザードは!」と矛盾した雄たけびをあげる。
 イラつくミゲルを、アルトゥールが抑える。「無効が反則をする覚悟をしていたとしても、日本とブラジル、条件は同じだ」アルトゥールはもう少し様子見を決め込む。得点力を売りにした選手だろうに、キャプテンとしての方向性が水神矢と同タイプの、一歩引いたところから冷静に見て考えをまとめてから必要に応じて口にするキャラクターのようだ。
 今度はブラジルが攻め込む。ロランがすれ違いざまに野坂のももを狙って突く。倒れる野坂、足を押さえて痛がる。指先しか触れていないのに、野坂の演技で接触扱いになってしまった。
 ロランが冷静さを取り戻そうとする間も、野坂は倒れたまま痛みに耐える演技を続ける。ほんの数か月前まで日常的に痛み止めを飲んでいただけあって手慣れたものだ。痛がる特訓をしたこともある風丸が手を貸して起き上がらせる。
 今度は野坂が、すれ違いざまにロランの心の弱い部分を突く。「もっとうまくやらなきゃ。ファールをとられたらダメだよね」悪い顔!
 氷浦が明日人にパス。「ムリするなよ!」どういう意味だ? 二人で上がっていくと、明日人が宙に蹴り上げたボールを、氷浦が空中で受けてそのままパス、それを飛びあがった明日人が受けて……と、アフロディから空中戦法を習ったようなムーブでディフェンダーの頭上を通過。無理はこれか? 無理したらできるような動きだとしたらすごいな。
 着地した氷浦は、振り返って両手でゴムバンドを伸び縮みさせる。トレーニング用品を持ってきたのだろうか。
 マセウスはすでに日本側が反則をしていると思い込んでいるようで、「あいつら、あれでボールを引き寄せていたのか。くそっ」と悔しがる。
 実際、反則なしであのムーブができると信じるより、手品の種があると信じる方が楽な超次元ドリブルだ。明日人と氷浦の身体能力とパス精度が高い。
 アルトゥールはほぼ気づいているだろうが、まだ何も言わない。確証がないからか、考えがまとまっていないのか。
 明日人が「これならどうだー!」とノーマルシュート。マセロが予想外のカーブに苦しみつつ追いつく。不思議がっているが、明日人はジグザグの軌道を描くヘディングシュートができる男だぞ。頭よりはもうちょっと器用に動く足ならもっと曲げられるだろう。
 明日人、わざとらしく「あー、惜しい!」と白い塊を取り出す。石鹸にしか見えなかったが「滑り止めはなかなか効いたな」という発言からすると、炭酸マグネシウムのブロックと思わせているのだろうか。病院潜入回と違い、今回の明日人はアレスの天秤の頃によくいた相手に気取られず粛々と作戦を遂行する方の明日人、オリオン一話で灰崎をからかう方の明日人だ。シャッチョさんにとってはこれこそ明日人なんだろう。個人的にはシャッチョさん脚本回の明日人が一番好きだ。
 ミゲルが「お前ら、なにも感じないのか! こんなサッカーをして!」と、いつぞやのウズベキスタン代表の「汚いぞ、こんな技を……」「これは公式な世界大会だ!」をほうふつとさせるお前が言うなフレーズを放つ。
 明日人がとぼける。「こんなサッカー?」
 相手が術中にはまっている確信からか、強気な表情で「なにかまずい?」と、本当になにも悪いことはしていない強みで、開き直ったようにしか見えないことを言う。どうも以前あったCMの「あなたのためだから」というフレーズを思い出す。実際ブラジル代表のためにやってはいるけれど。
 愚直なプレーでミゲルたちの心を動かした明日人までもが手のひら返し。ショックを受けるブラジル勢。先にやったのは君らだけどね。
 アルトゥールがそれを指摘するが、ミゲルが言い返す。やりたくてやっているわけじゃない、自分を抑えてやっているんだと。免罪符にしては弱く、開き直れてもいない発言だ。
 アルトゥールは静かに「オレたちがやってきたことは、そんなことだったんだよ」とつきつける。「オレたちが反則で点をとったとき、日本の奴らだって感じたんじゃないか。今のお前たちと同じ悔しさを」
 「練習を重ね、こんな大舞台までやってきて、反則プレイでそのチャンスを奪われようとしている。悔しくてやりきれない気持ちになって当然だ。オレたちがやってきたことは、そんなことなんだ」
 過去の自分を責めるように言うアルトゥール。ルシアンが「わかってるさ。これが間違っていることだって。最初からわかってたんだ!」と認めはするが、現状は変えられないと言う。ベルナルドの指示には逆らえない、勝たなければいけない、と。
 ルシアンはストレスに耐えられず、いっそ日本選手を潰してしまおうと言い出す。ダニーニョも同意する。ケガをさせて一気に蹴りをつけ、オリオンの使徒としての日常に戻れば、罪悪感に苛まれる時間は短くなる。相手も悪いのだから罰は当たらない。
 だがアルトゥールは反対する。その根拠は「あいつらは反則をしていない。そう見せかけているだけだ」。やはりアルトゥールは見抜いていた。その意図もだ。
 「たぶんオレたちに気づかせるためさ。自分たちのやっていることの愚かさを」
 しかし、自分たちの間違いは認めても、誰一人ベルナルドの間違いは認めない。
 アルトゥールが見上げる太陽のように、ベルナルドはこのチームの光だ。
 アルトゥールは、今のベルナルドについては考えず、かつてのベルナルドの教えに従う。映画『バーフバリ』の後編にあった、母親と対立した主人公が、正しき母の教えに従い、今の母の過ちを指摘して王宮を去るシーンを思いだした。
「本当の想いを殺して生きていても幸せになれない。ベルナルドさんはそう言っていた」
 だったらどうすればと噛みつくミゲルに、アルトゥールは「サッカーをやる。この胸の奥にある気持ちのままに」と胸のチームロゴに手を当てる。
 これはチームにとって、初めての反抗だ。無条件で従う子供時代は終わった。「相手を理解する信頼もあれば、理解してもらおうと努力する信頼だってあるんじゃないのか」
 アルトゥールはひとりの人間としてベルナルドを信じる。「わかってくれるさ。ベルナルドさんなら」
 彼らはネイビーインベーダーのように騙されて連れて来られたわけでも、マリクのように生活のためにサッカーをしているわけでもない。ベルナルドに対する忠誠心で世界大会までついてきた。他のチームに比べれば、遥かに強い絆でベルナルド個人と結びついている。オリオンから離れることは考えず、しかし指示には逆らうという、一見矛盾した行動を取れる唯一のチームだ。
 「みんな。やろう、サッカーを! 不幸のどん底だったオレたちを幸せにしてくれた、あのサッカーを! 今からやるんだ!」
 あのサッカー。この一言で皆に伝わるほど、ベルナルドに教えられたサッカーが印象深いということだ。
 心のままに、サッカーができる。それだけで涙ぐむイレブン。気合を入れて走り出す。

アイキャッチ

 趙金雲が選手交代を宣言。西蔭アウト、円堂イン。キャプテンマークが円堂に移動。
 実況解説席。話を振られた角馬はしばらく答えず、急に大声をあげて実況を始める。テンションが高い!
 ブラジル側は生き生きとボールを操る。笑顔が戻った。
 水神矢が「ほう、変わったか」と言ったとたん抜かれる。灰崎が呼び捨てで「ボサッとしてんじゃねぇ!」と怒鳴ると、不本意そうに立ち止まって「先輩ってことを忘れてるよな」。結局あだ名はなく呼び捨てになったようだ。
 ミゲルがタツヤを抜いてゴール前へ駒を進める。追う灰崎と水神矢、風丸がゴールとの間に立ちふさがろうとする。ミゲル、超絶バックパスでアルトゥールに渡す。なまじミゲルに追いついていた灰崎と風丸は反応できない。
 アルトゥール、「ゴールはいただく!」と宣言して、新シュート技「カーニバルシェイク」を放つ。蹴るたびカラフルな紙吹雪が舞い散り、激しいジグザグ軌道を描いてゴールに向かう。色合いは林属性か。
 円堂の対抗技は「ダイヤモンドパンチ」。ラインの外まで弾いた。右手が痺れたか、左手で手首をつかむ。「すげーじゃねぇか、ブラジル。オレたちも負けてらんねーぞ!」楽しそうだ。
 水神矢が言う。「どうやら、オレたちのメッセージは通じたようだ」剛陣の「こんな方法で考えを変えられるとはな」に対し、冷静に返す。「考えを変えたりはしていない。彼らは最初から、汚いプレーをしたいとは思っていなかった。自分と向き合う勇気を出せただけさ。自分が本当にやりたいことに、やるべきことに気づいたんだ」
 こうしてブラジル代表の本質を見抜いたことも、事前の全試合分析の成果か。
 褒める野坂に対し、水神矢は「素直じゃないやつの扱い方には慣れてるだけさ」と軽口で返す。急に話の矛先が飛んできた灰崎が反応するが、一星がさえぎる。
 一星いわく、イナズマジャパンの戦術は、無策のブラジルに潰されている。
 野坂にとって今のブラジルは、アレスの天秤で測ることのできなかった雷門と同じように、計り知れない力を持つ強敵だ。
 明日人はめげない、負けない。「だったら計算なんかやめて、全力を出して、思いっきり戦おうよ」
 策がないなら、全力を出せばいいじゃない。というわけで、ブラジルの気持ちのいいサッカーでテンションがあがったのか、明日人の提案に乗っかるイナズマジャパン。円堂の決めゼリフがフィールドに轟く。「サッカーやろうぜ!」
 明日人がいつもの真っ直ぐプレーでアルトゥールからボールを奪う。アルトゥールが「どうやらオレたちの本気に応えてくれるようだ」「サッカーならオレたちは負けない。さあ、始めよう、サッカーを!」と、本当の試合の幕開けを宣言する。
 ベルナルドが微笑む。お前、今もそんな顔ができたのか。
 「デスサンバ」を正面から受ける円堂、胸で弾いてこぼれたところをアルトゥールが押し込む。
 「ファイアレモネード・ライジング」に対抗キーパー技「マカロニスパゲッティ」だが、止めきれない。
 パスをカットした野坂がイレブンバンドを確認。残り3分を切った。さすがにみんな息があがっている。明日人にパス。全力で勝利に向かって走る明日人と、阻止しようとするアルトゥール。
 VIPルームのベルナルドが立ち上がる。「これがあの子たちの本当の姿か」浮かない顔で自省し始める。
 明日人はブラジルのお株を奪うようなボールさばきでアルトゥールを翻弄。灰崎にパス。「シャーク・ザ・ディープ」がブラジルゴールに襲い掛かる。
 マセロが気合を充填。「このマセロに任せろ!」と、必殺技を進化させて対抗。「マカロニスパゲッティ ソース増量」しかしソース程度ではサメに丸呑みされたか、止められない。届かない。
 アルトゥールが跳躍。太陽を背に、ライダーキックばりのムーブでボールを弾こうとするが、その先には水神矢。決死のヘディングで押し込んだ。一歩間違えばスパイクで頭を削られるところだった。度胸がある。
 実況解説席で、角馬が突っ伏したまま動かない。急いでマクスターがゴールを叫ぶ。
 水神矢の勇気あるプレーで日本が1点リード。喜ぶ仲間たち。
 趙金雲もご満悦だ。水神矢の加入でまた一段変化した日本代表。
 ブラジルボールで再開するが、時間切れだ。ホイッスルが鳴り、選手たちは次々フィールドに伸びる。
 マクスターが「いい試合でしたね!」と角馬に振ると、まだ突っ伏していた角馬が滂沱の涙で顔を上げて男泣き。
 ベルナルド、自分のチームが負けたというのに、立ち去りもせずピッチを見つめている。「おめでとう。試合には負けたが、ある意味では勝利だな」視線を上げる。「私の生み出してしまった心の影に打ち勝ったんだ」
 両開きの扉が開け放たれる。女の声だ。「なにをしているの、ベルナルド」
 振り返ったベルナルド、気弱な表情で彼女の登場に驚く。
 彼女はつかつかとベルナルドに寄っていきながら「言ったはずよね、手段を選ぶなと」
 女性の表情は冷たい。顔はベルナルドに似ている。
 ベルナルド、顔に影が差し、冷や汗をかきながら弁解を試みる。女性は「言い訳無用!」と怒鳴り、左右の頬に平手打ちを食らわせた。突然のサプライズ暴力。
 ベルナルドは、反撃ひとつできず、怯えた表情で見上げるばかり。記憶がよみがえる。
 95点のテスト。イナズマ世界では世界共通で正解に丸をつけるようだ。高得点ではなく、取れなかった5点を叱る声。「こんな簡単な問題を間違えて、きっちり理解するまでそこで勉強してなさい!」小さいベルナルドは、母親の衣裳部屋に閉じ込められたようだ。あのばかに大きな屋敷なら、子供を閉じ込めておく場所には事欠かないだろう。右手が痛んでも出してはもらえない。
 小さなベルナルドがオレンジのジャケットを着てはしゃいでいる。しかし、彼女は上着を強引に脱がせると、そのまま破り捨てた。「趣味の悪い色の服なんか着て!」ヒステリックな叫び声と、悲しげに見上げるだけのベルナルド。
 破り捨てられた写真とケーキのカード。写真にはベルナルドと金髪碧眼の女の子が並んで写っていた。その上に青いプレゼントの箱が投げ捨てられ、箱は白い靴で踏みつぶされる。飛び出す犬のぬいぐるみ。
 背景は服を破られたシーンと同じなので、ここがベルナルドの子供部屋なのだろう。床に転がるバラの花束。なおも踏みにじられるプレゼントの箱。「ベルナルドにふさわしいガールフレンドは私が選びます!」
 いやいやいやいや、ちょっと待て。叩く、怒鳴る、閉じ込める、目の前で物を壊す、人間関係を破壊し支配すると、こんなやばい人が選ぶガールフレンドなんて、完全に支配されているお人形さんか彼女と同類かの二択だぞ。怖すぎる。
 顔が出た途端に虐待案件を繰り出してくるとか、登場のインパクトが強烈すぎませんかね。この人これからまだまだ何かやらかすはずだから、今後の動きによっては私の中の『くたばれ! イナイレクソ親大賞』殿堂入り選手・吉良星二郎(無印)に二馬身差をつけてゴールしそうだ。おっかない。
 ベルナルドの過去があまりにあんまり。これはつらい。親からこれだけのことをされて辛くならない子供は一人もいない。あの金髪碧眼の子が好きだったらなおトラウマになるな。いろんな意味でまともな結婚ができそうにないが大丈夫か。いっそ改宗して外国の修道院にでも入れ。そうでもしないと逃げられそうにない。
 無力な上に自分によく似たできのいい子供に対して、これほどの仕打ちをやってのける彼女の生育環境も、絶対に同じくらい闇が深いぞ。
 ベルナルドは学習性無力感に陥っているようだ。怯えながら膝をつき、自分を抱きしめて床に転がって叫ぶ。「ごめんなさいママ! 許してママ!」
 地位ある成人男性に部下の前でこれほどの醜態を演じさせておいて、この母親はまるで飴を与える気のない顔をしている。怖い。この一切の取引が通じない理不尽な破壊性、原始の地母神型だ。
 扉の外にフロイ。この修羅場を目撃して、つい一歩さがり「兄さん」と呟いてしまう。母が振り返る。「あらフロイ。いたの?」実に情の無い声だ。
 さすが実子にあの人呼ばわりされるだけあって、名前を呼ばれただけのフロイがぎょっとして冷や汗をかく。ベルナルドはまだ丸くなってすすり泣いているが、母親はそれを放置してかすかに笑っている。支配的にもほどがある。
 フロイは回想で、兄が父の死を悲しんでいると考えていたが、本当は母親と二人きりになることに怯えていたわけだ。またしても人間心理の機微にうとい面を見せてきた。一星、ロシアチーム、今度は兄まで、ことごとく心情を読み誤っている。フロイは世間知らずなお坊ちゃん属性を利用したミスリード要員なんだな。
 高い場所の修羅場など露知らず、芝生の上では汗にまみれて戦った選手たちが握手を交わし、善きサッカーの時間を讃え合う。明日人とアルトゥールが光射す空を見上げる。
 おそらくアルトゥールは、自分たちの想いがベルナルドに伝わったことを信じて。
EDへ。



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前回の感想 第42話「小さな空の下」へ

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