好きなものは好きだと言え

自戒を込めて好きな作品を好きだと言うためのブログ

2019年07月

オリオンの刻印 感想一覧へ

サブタイトル「オリオンの真実」
スペインVSアメリカ戦・決着



 アバン回想はお前誰だシーン。
 アースことルースはすぐにバンダナを再装着。
 万作たちも気づく。灰崎、前回あれほどハッキリ明日人と断定したのに「騙されたぜ」と残念ソムリエぶりを見せつける。目の前に裏切った明日人(にしか見えないもの)があれば裏切られたと言い、違ったら違ったで言い訳もせず騙されたと言う灰崎、変なところで見たままを素直に受け入れるタイプだ。
 マリク、洗脳の解けかかった明日人の苦悩も演技だったのかと問う。
 肯定するルース。「迫真の演技だったろ?」なかなかいい性格だ。野坂の作戦で芝居に興じる風丸を思い出させる。アレスではミスリードの鬼・野坂&茜に騙されたものだが、今作も風丸に士郎に子文にルースと演技派が多い。一星? 最初期は中の人があまり上手くなくて、かえって心にも無いこと言っている様子がよく出ていたのが好印象だったが、騙されたかというとちょっと違うな……。
 マリクから何者かと問われ、「オリオンを倒すために立ち上がった革命軍の一人さ」。ベルナルドの支配下にあるチームに対して挑戦状を叩きつけるに等しい発言だ。マリクにわざわざ顔を見せて名乗った意図はなんだ?
 今まではオリオンがよそのチームに工作員を送り込む側だったが、ここへきて、オリオンのチームにも獅子身中の虫出現。複雑な様相を見せてきて愉快ゆかい。

 イナズマジャパンのロッカールーム。みんなが着替えもせず、落胆している。
 灰崎は終わったことを嘆くのは性に合わないようだ。ガタガタ騒ぐんじゃねぇと叱咤。
 一方、野坂はまだ決勝進出の希望があることを皆に思い出させる。
 駆け込んでくるマネージャーたち。日本の決勝進出が決定したことを知らせに来たのだ。
 半信半疑のメンバーたち。析谷の解説で、ようやく事実だとわかり、喜ぶ。
 スペインVSアメリカは、スペインが2得点で勝利。
 クラリオは死力を尽くして戦ったのだろう、フィールドに膝をついて勝利を迎える。彼はこの試合に勝っても、スペインが決勝進出できないことはわかっている。オリオンとの戦いを日本に託した。
 円堂は空の観客席を見上げ、クラリオの想いを受け止める。

OP

 時間がロシア戦前日に飛ぶ。
 夜のオリオン財団本部。
 明日人は着替えさせられ、施術台で眠っていた。新条と研究員らしき白衣の男が話す。
 オリオンは明日人にマインドコントロール施術をしようとしている。どういう理屈か、施術は目が覚めている時でなければできないようだ。
 新条は、確認したいことがあると言って明日人に接触しようとするが、研究員に却下される。理事長の指示は絶対だ。
 新条はこの研究所に関して、越権行為を黙認してもらえるほどの根回しはできていないようだ。
 新条、実力行使に出る。催眠ガスをスプレーして研究員を昏倒させた。目的のためなら手段を選ばない。オリオンらしい。そのまま明日人を連れ出してしまう。替え玉はここで仕込んで、施術が終わったことにして表に出したということか?
 場所が変わる。テレビでロシア対日本が中継されている。改めて思うが、少年サッカーと銘打っているが、完全にプロ選手によるワールドカップだ。画面を見ている新条の背中。
 テレビの音が聞こえる中、明日人が目を覚ます。辺りを見渡すと、新条に声をかけられる。背景にトロフィーが3つ。元ネタは何のトロフィーだろう。広い家だ。ここに一人で住んでいるのか?
 「俺、なんでここに?」と不思議がる明日人。そりゃそうだ。真人の策略に引っかかったと思ったらなぜか新条が目の前にいる。誘拐先でさらに誘拐されたなんて思いもしないだろう。
 新条はスツールに腰を降ろす。「その質問の答えは少々長くなるな」ややもったいぶった感じだ。

 日本代表の合宿所。やたらと赤い。
 みんなで食堂に集合し、話し合っている。
 バンダナの選手が明日人でなかったため、明日人捜索は振り出しに戻ってしまった。
 進展がないからか、趙金雲はひとつ情報開示。「オリオンは私に、稲森くんに接触したことを匂わせていました」ベルナルドは匂わせるどころか、稲森は寝返った宣言をしたというのに、あいかわらず素直に白状しない男である。
 剛陣は強引にでも明日人を連れ戻すべきだと主張。はっきり誘拐だと認識している。
 とうとつに現れる明日人っぽい後姿。のりかが驚いて声を上げる。振り返る万作。
 そこに立っていたのは、まさに稲森明日人だった。「みんな、心配かけてごめん」といつもの調子。
 「のりか、小僧丸、お前たちも合流してたんだな」という声に少し生気がない。あと、痩せて背が伸びた小僧丸をちゃんと小僧丸だと認識できている。中継を見たのだろうか。
 のりかは呆気にとられつつ「また一緒にプレイできるね」。いい子だ。
 剛陣は父親との再会をたずねる。明日人は間を置いたあと、うんと答える。氷浦に父親の話を促されて、明日人が口を開く。
 「父ちゃんには会えたんだ。だけど」と、回想する。
 新条の家らしき場所。ずいぶん広いテラスだ。おとなの背丈ほどもある植木が何本もあるのに、まったく狭苦しくない。その中央で、円テーブルに新城と明日人がついている。
 新条は呑気なことに、お茶を飲んでいた。明日人が消えた時点で犯人はバレているのでは? 優雅に紅茶をいれて会話している場合か? 試合中はベルナルドが動かないと考えているのだろうか。
 明日人は、真人が本物の父親ではないと確信し、新条に確認する。新条が肯定。真人は明日人をオリオンに引き入れるためのエージェントだった。
 マジかよ。どこからあんなに似てるエージェントをリクルートしてきたんだ。そして真人は本当に詐欺師だった。信用詐欺の才能があるどころか本職だった。この腕前、今日を生きるのに必死な子供たちを引っかけるには十分すぎる。
 それにしても、一選手を引き込むためだけにしては手間がかかりすぎている。明日人の背景にはまだ設定がありそうだ。
 明日人は、一方で子供の情として、父親に会えたと思いたかった。しかしもう一方で、自分のサッカーのルーツである人物が、オリオンのサッカーをよしとするとは信じられなかった。明日人は、サッカーへの信頼を選んだ。
 しかし明日人は、真人の持っていた写真や、明日人の周囲をよく知っていたことが解せない。明日人は新条を問い詰めようとするが、牽制される。「オリオンはどんな手を使ってでも必要な情報を集める」
 明日人、ひどく困ったような、誤魔化すような笑みで、紅茶のカップを手に取る。
 新条は、明日人の父の行方を調査していると言うが、どのていど本心なのやら。
 明日人は直球にたずねる。「オリオンが悪いだけの組織じゃないってこと、信じていいんですか」
 新条いわく、かつてオリオンは希望の象徴だった。
 二重の回想シーン。新条によるかつてのオリオン回想だ。
 新条が巨大な肖像画を見上げている。描かれているのは、ベルナルドと同じタイプのスーツを着用した男性の上半身。
 彼の名はヴァレンティン・ギリカナン。サッカー振興のためオリオンを作った人物。すなわち、ベルナルドとフロイの父親だ。ベルナルドが着ているスーツは父親のものか。それによって自分が後継者だと誇示しているのかもしれない。
 ヴァレンティンは貧しい地域へ直接サッカーを施しに行っていたようだ。なぜ新条が同行しているのかはわからないが。
 ヴァレンティンからボールを受け取った子供たちは大はしゃぎで走り出す。あの笑顔こそがオリオンの存在意義だと言うヴァレンティン。新条はこの主張に大いに感銘を受けたのだろう。
 背景がテラスに戻る。
 オリオンが変わったのは、ヴァレンティンの死後、ベルナルドの代になってから。ベルナルドは端的に言って金の亡者になった。
 明日人は、新条がそれほどトップに近い立場にいるなら、オリオンを止められないのかと問う。
 新条は、オリオンを止めることで子供たちへの支援が止まってはいけないと考えていた。ヴァレンティンの理想であり、ベルナルドもそれだけは続けているからだ。
 しかし現状をよしとしているわけではない。悪質なサッカーの支配を止めるべく、イナズマジャパンを使って反乱分子を増やしている最中だった。
 搾取は止めたい。
 でも金は今まで通り出させたい。
 なかなか虫のいいことを希望している。
 着地点としては、搾取からフェアトレードへ、という辺りなんだろうけど。
 明日人は察しが良かった。新条が一星を送り込んできたことに気づいた。
 再び新条の回想。今度は、一星一家がサッカーをしているシーンだ。光の「兄ちゃんナイッシュー!」がもはや懐かしい。
 一星父は充のプレーをほめると、振り返って、フェンス越しに立っている新条に、笑顔で手をあげた。新条はこんな人脈を持っていたのか。もしや一星の車の事故は、一星父が新条についたせいでオリオンから報復を受けた結果では?
 新条の回想終了。一星家-新条の人脈ルートは視聴者にしか教えてくれなかった。誰をスカウトしたらロック解除されるんだ、ヨネさんか? あの人こうていペンギン2号打てるぞ。
 新条が一星を送り込んだ理由を語る。
 ひとつは、一星を通じてオリオンの手法を学ぶこと。完全に予防接種あつかい。一星を乗り越えればもっと濃度の高いオリオンにも対処ができるよ、ということだ。
 もうひとつは、一星の救済。まさかの人任せ。実際一星は救われて正気になり、以前よりずっと幸せそうな顔をするようになったけど。
 明日人は策の効果を認める。雨降って地固まる、一星によってチームは強くなった。
 新条いわく、明日人はオリオンの二面性を知った。
 明日人はいつもサッカーに対してまっすぐだ。「光と影。でも俺は、サッカーを汚すオリオンのやり方、認めたくないんです」
 新条は少し笑い、「だからこそ私たちは戦っている。多くの協力者と共にね」と、再び回想。
 今度は訓練施設内。観客席には、趙金雲。ただし、飲んだくれて薄汚れている。赤ら顔にスルメをくわえ、ひょうたんの水筒を手に提げて、貧困街のネズミといった風情だ。
 「こんな落ちぶれた男に何のご用ですか?」話し相手は新条だ。「あなたはオリオンにすべて奪われた。あなたがオリオンのやり方にたてついたせいだ」
 ということは、趙金雲が失脚した10年前にはもう、ベルナルドはオリオンの実権を握っていたわけだ。何歳なんだ。フロイといくつ年が離れているんだ。
 趙金雲は怒りをこらえるようにスルメを噛み切るが、いつものシリアスになりたがらない口調で「ですが、私はこれで終わる男ではありませんよ」とうそぶく。めげない。
 新条がいう。「だから私はここへ来たのです。私と手を組みませんか」
 ようやくこのシーズンのチェスの指し手が誰か判明した。
 一方の指し手はベルナルド。駒はオリオンの使徒とオリオン財団。
 もう一方の指し手は新条だ。駒は趙金雲とイナズマジャパン、クラリオたち反乱分子。そして恐らく、ルースのいる革命軍もだ。
 イナズマジャパン自体は、この盤上の中心にない。これは過去のイナズマイレブンにない展開だ。
 それにしても新条はなかなかの秘密主義者だ。聖書のあれと主旨が違うが、「右手のすることを左手に教えるな」タイプだな。
 回想が終わって、ようやく新条-趙金雲ラインが明日人にもつながる。
 「仲間ならここにもいるよ」と声がして、吹雪士郎が再登場。そんなに堂々と新条の家に出入りしてベルナルドに目をつけられないのか。

アイキャッチ

 久しぶりの再会に、明日人が驚く。「吹雪さん! なんでここに?」
 「いま僕はオリオンの訓練生になりすまして、オリオンの不正を調べている」偽装請、いや、なんでもない。それより、顔もプレースタイルも割れているうえに足を痛めているはずだが、本当に大丈夫なのか?
 これが妖狐ポジションか。正体がバレずに期限が来たら勝利。
 新条は以前から士郎に接触し、情報を流してもらっていた。おや、趙金雲とは直接やりとりしないのか。また複雑な。
 趙金雲は趙金雲で、別に新条に指図を受けるでもなく行動しているわけだ。反乱側には頂点に立つリーダーがいるわけではないということになる。強権を握りこんでいるベルナルドへの対抗策として、潰されたら全体が瓦解するような中心点は作らない、ということだろうか。
 新条が士郎に接触した目的は、オリオンの妨害工作による致命傷からチームを守るため。予防接種の注射後に、解熱剤も処方しておきますね、というやつだ。
 スパイ疑惑のもととなったデータの大量送信も、士郎が新条に流していたもの。なかなかのポーカーフェイスだ。士郎は士郎なりに、自分で考えた結果、新条に賛同して、単独で動いていた。
 明日人、自分にもできることがあるかたずねる。
 「オリオンを変えるためには、オリオンのやり方を正面から打ち破る必要がある。それは君たちイナズマジャパンの役目だ」
 イナズマジャパンは対オリオン最大の橋頭堡というわけだ。
 明日人は試合を勝ち進むことで戦う決意を固める。
 士郎は戻るらしい。もしや、明日人と話すときに同席してもらうためだけに呼びつけたのか。
 新条が明日人に対し、キャンプまで送ると申し出る。仕事は大丈夫なのか。かなり給料は良さそうだが、なんの仕事をしているんだ。組織の破壊工作までしながらそんな余裕があるのか。
 明日人は新条を止め、「お願いがあります」と言い出す。

 夕日に照らされた、川べりの遊歩道。
 野坂が見守る中、一星とフロイが同じベンチに腰掛けていた。二人に背中を向けている野坂は、明日人がさらわれたことを踏まえてのボディガード役だろうか。
 フロイはうなだれていた。啖呵を切って出ていったわりに、覇気がない。「尊敬する兄さん」と言っているが、具体的にどういった部分を尊敬しているのか詳しく聞かせてくれ。金とか言われたらちょっと困るけど。
 フロイは、兄に逆らって我を通すことを、だだをこねているだけなのかもしれないと言う。
 一星は、フロイにベルナルドのやり方を思い出させる。理事長代理は一星に事故を起こさせようとまでした。
 フロイはやや弱々しく謝る。一星は、うなだれたままのフロイと対照的に、オレンジ色の空を見上げて「いいんだ」と言う。「君の中で起こったことは、俺にも起こったことなんだ」
 一星は、弱っていた自分を利用した卑劣な大人たちを恨んでいないようだ。それどころか、自らの経験から、自分とまったく境遇の違う、何一つ奪われることなくサッカーをしてきたフロイにさえ、本物の共感を抱けるようになった。大きく成長したな。鬼道に「絶対許さん!」と即座に報復していたのが遠い昔のようだ。フロイも顔を上げる。
 一星にとっての救いは、サッカーと仲間たち。しかし、他の誰かにとってはオリオンが救いであることも認めている。「簡単な問題じゃないよね」
 善悪二元論ではなく、玉虫色の現状をそのまま受け止めさせてくる戦陣軸。相変わらず大人向けイナズマイレブンである。いいぞもっとやれ。
 フロイはふたたびちょっと頷いて、父の死を惜しむと、伸びをして、自分とサッカーの出会いを語り出す。
 フロイは父によってサッカーと引き合わされた。父・ヴァレンティンのオリオン設立のきっかけはフロイかもしれない。
 回想。
 吉良邸をさらに上回る大邸宅。もっとも、大陸と東京では地価がだいぶ違いそうだ。こういうものを見るとザ・シムズで作ってみたくなる。そして挫折する。
 ひざを折ったヴァレンティンが話しかけているのは、小さな小さなフロイ。当時のフロイは病弱で、命を長らえることそのものが難しいようだった。その証拠にか、青い前髪は今と違って重力に負けている。
 父は希望としてサッカーボールを与えた。多くの人が追いかけ、夢を見たサッカーで、フロイが走る力を得ることを願って。
 ヴァレンティンは、信じて努力すれば、サッカーはすべてを与えてくれると説く。
 明日人の母がサッカーに対してもっと限定的に「求める限りそばにあるもの」としか言わなかったことに比べると一神教の感がある。ロシア正教のお国だからか。
 フロイにとってボールとは父の励ましだった。サッカーは迫る死を忘れて夢を見る時間だった。
 別の日の回想になる。
 小さなフロイは巨大な紙に絵を描いたり飛行機のおもちゃで遊んでいた。ヴァレンティンが、サッカーはどうしたと聞く。フロイいわく、楽しいけどすぐ苦しくなるし、服も汚れる。周りのように上手くできない。なるほど、フロイにとって「下手であることは楽しくないこと」という感覚は自分の体験から来た発想だ。
 ヴァレンティンはフロイを呼び寄せ、一緒にソファに移動。貧困の中サッカーに夢中になる子供たちの動画を見せ、「かわいそうだね」と言うフロイに優しくお説教する。
 うーん……? お前の苦しみは、もっと苦しい人たちに比べたらなんてことないから頑張れ。でももっと苦しい人たちを可哀想と思うな。サッカーしろ。というメッセージ?
 ぼくのかんがえたすてきなむすこ育成計画?
 ぜんぜん心に刺さらなくてすまないね、ヴァレンティン。ただ、生き物として、子供たちが飯を食えるかどうかはもうちょっと考慮してやって欲しいところだ。
 あとフロイ。こういう善意のお説教を聞いていながら、一星に叱られた頃のひとを舐め切った態度はどうなんだ。やっぱりお前、ベルナルドの弟だよ。
 「オリオンは一人の少年を救うために作られた組織だったのかもしれないな」となると、当初の目的からずいぶん逸脱している。救いたかったはずのフロイから楽しいサッカーを奪っているのだから。
 「オリオンにますます幻滅しちゃった?」「いや、オリオンの大切さが改めてわかったよ」
 一星はその頭脳ですぐさま結論を出す。「オリオンとサッカー、両方を救う道を探すしかないよ」。そしてフロイに、自分たちと違う方法でそれを達成することをすすめる。
 笑いだすフロイ。リアクションの意味がつかめないでいる一星。
 フロイの笑いは喜びの笑いだったようだ。そのうえ、本心は決まっていたと言い出す。今回は甘えてみたくなったのかもしれないし、一星の考えを知りたかったとのこと。
 こらこら、一星の善意をさらっと搾取していくな。一星が一歩引いちゃったじゃないか。
 一星の、困った時にとりあえず笑顔になる日本人的リアクション、おそらくフロイには通じないぞ。快く許してくれたと誤解させるぞ。
 フロイは笑いをおさめて、今後の道のりの険しさを告げる。天国の門は狭いのだ。そのうえ一人で踏破できる道ではない。しかしフロイはフロイなりに手は打ってきたらしい。

 場所が変わって、オリオンの訓練施設。
 マリクがボールを戻している。それを見下ろす新条。新条の視線の先に、日本代表ジャージの背中。明日人だ。
 明日人はマリクに声をかける。他には誰もいない。これだけ広い施設を個人練習に使えるとは贅沢な話だ。貧民窟出身には確かに夢のような話だろう。
 明日人はオリオンのサッカーを続けるつもりか問う。「オリオンのサッカーは、マリクのやるべきサッカーじゃないよ」
 明日人はいつも、誰かが「本当のその人自身のサッカー」をしていないことに怒り、口にする。アレス25話の灰崎と野坂に対してもそうだった。
 逆に言えば、明日人はその人がその人自身のサッカーをしている限りにおいて、ラフプレーや人の神経を逆なでする言動を許容する。灰崎の10得点試合しかり、野坂のグリッドオメガver2.0しかり。明日人の望みはけして、誰もかれもが「良い子のサッカー」をすることではない。なんなら活きのいい混沌がお好みだ。
 マリクは躊躇するが、明日人を突き放そうとする。そんなことでめげたり折れたりする明日人ではない。「マリクのサッカーは本物だ。オレにはわかる。もっと自由にサッカーをやりたいと思っているはずだ。本当のサッカーを」
 こうなると組織に金で縛られている人物の技が、翼持つ生き物というのも、なかなか皮肉。
 マリクは「本当のサッカーってなんなんだよ!」と怒鳴る。明日人は食い気味に、オリオンを抜けて本当のサッカーをやってほしいと言い出す。残酷だが力強い提案だ。
 マリクは葛藤している。そこへフロイの声。「それでは何も変わらないよ」
 一星との会話後にそのまま来たのだろうか? と思ったが、過去形で言っていたことと昼間であることを考えると、これは一星に会う前か。私服のフロイが立っている。いわく、マリクを抜けさせても新たにオリオンのサッカーをさせられる選手が作られる。
 フロイは、日本(一星?)との試合がよほど楽しかったし忘れられないようだ。久しぶりに、父から教わったサッカーを感じられたのだろう。兄に従うことより、生きる喜びを選んだ。
 明日人が同調し、マリクの説得にかかる。拉致前はマリクが真人と二人がかりで明日人を勧誘していたが、今回はマリクの方が二人がかりで迫られている。良心に従えと。
 しかしマリクは、自分のやりたいサッカーに意味がないと絶望的な言葉を吐く。マリクは、サッカーをするのに必要な「物」「人」をすべてオリオンから与えられてきた。その対価を払わなくてはいけないと自分を縛っている。ただより高い物はない、たいていは人生や魂を取り立てられるものだ。
 フロイは「そう。恩を返すんだ」と挑発的な発言。
 「どういう意味……?」と振り返るマリクに、明日人が解説する。「今度は君が、オリオンを救うってことなんじゃないかな」打ち合わせもしていないのに察しがいい。息ぴったりだ。
 「そうだよ。この僕らの手で、黒い闇に侵食されるオリオンを救う。僕らは、オリオンを射るアルテミスの矢になって、その闇に染まった心臓を射抜くんだ」
 そのたとえ、まともに学校に行ってなさそうなマリクに伝わるのか?
 ついでに言うと、どう考えても現状、息子のフレンドリーファイアで理想が瀕死のヴァレンティンこそがオリオンだ。
 ハッとするマリク。表情が明るくなり、うんとうなずく。
 これで、フロイが第三勢力として、ベルナルドと新条のゲームに割り込んでくることが決まったわけだ。オリオンの後継者レースではかなり有力な優勝候補になるだろう。
 フロイは考えがふわふわしていて頼りないが、創始者の息子として直接薫陶を受けているし、自分も国の代表になるほどのサッカー選手。ベルナルド体制続行だと腐敗が進行するし、新条がオリオンの指導者になると、組織がよそから来た人間に乗っ取られた感が否めない。フロイが継ぐパターンが最も体裁がいいだろう。

 赤い夕焼けの中、代表キャンプに到着する車が一台。
 乗っているのは明日人と新条だ。
 明日人は大人に敬語を使えるキャラクターなので、きちんと「ありがとうございました」と言ってシートベルトを外す。
 新条は珍しく無表情ではない顔で、「ここからの試合も頑張りなさい」と励まし、ここから先がさらに厳しい戦いであることを覚悟させる。
 明日人は扉を閉める前に、新条に改めて、父の居場所をたずねる。ED入りの謎BGMがきた。
 新条は前方を向き、明日人と目を合わせることなく、調査中だと突き放す。
 直後のカットは、走る新条の車だが、すでに夜。
 新条の横顔はふたたびいつものポーカーフェイスに戻ってしまった。
 EDへ。



 オリオン財団から出現する連中が、新条といい真人といいフロイといいベルナルドといいヴァレンティンといい、どいつもこいつも、どこか厚かましくて、人間臭い。アニメにただの刺激だけでなく、ある程度哲学を求めるような、ライトじゃないオタク向けの作風だ。
 そんな新キャラたちに囲まれる中、明日人の成熟度と公平性は群を抜いている。こういうところが好きなんだ。
 ベルナルドと新条のチェス盤だけでなく、フロイという第三勢力を含めて、今の明日人は、人物分布図のちょうど真ん中に位置している。
 『オリオンの刻印』という物語の中心点は、稲森明日人。群像劇の主人公にふさわしいポジションだ。



次回の感想 第39話「アルテミスの矢」へ
前回の感想 第37話「黒いバンダナの戦士」へ

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サブタイトル「炎のエースストライカー」
星章 VS 木戸川清修・中編

(アレスの天秤の感想については、リアルタイムで22話くらいが放送されていた当時、一気に書いた感想メモを元にしています。)



 鬼道と豪炎寺の競り合い。折緒へのパスを西垣がカット。一人ノーマークを作ってパスを誘ってのカット。
 鉄板のチームディフェンスで連携力を見せつける木戸川清修。灰崎がいないのでさぞディフェンスしやすかろう。
 連携で攻めあがる木戸川清修、からの豪炎寺の回想。

 エースが戻ってきた。西垣と監督は歓迎、武方三兄弟は自分たちがエースだとツンツンした態度。スカウトキャラ風の後輩たちは大喜び。白星帽子は可愛いが、サッカーするにはものすごく邪魔そう。ヘディングできるのか?
 練習で後輩(帽子)と後輩(黒髪)の様子を見ていた豪炎寺に、武方三兄弟がサッカーでケンカを売る。受けて立つ豪炎寺、3on3を提案。豪炎寺は星野・水戸を入れてチーム結成。自分の言うことを素直に聞くメンバーを集めたな。
 ミニゲーム開始。意外にディフェンスのいい星野、パスに追いつく水戸で、豪炎寺のシュートにつなげ得点。焦る武方はお互いをライバル視して効率のいいプレーができずあっさり負け、豪炎寺に叱られて目が覚める。
 ……木戸川清修監督はまっとうなチーム感覚を持ってるのはいいんだが2年かけて武方三兄弟を躾けられなかったのはどうなんだ。パックリーダー豪炎寺のおかげでまとまった木戸川である。

 しょっぱい守りにキレる灰崎。嫌味を言う天野。全体に星章ディフェンスの集中力が低く後手後手になっている。ディフェンスにつく優先順位が共有されていないか。アニメの演出の感じからすると豪炎寺→勝→友・努の順番で守りを固めるのが正攻法に見えるけどどうなんだろう。
 武方三兄弟、豪炎寺直伝の「トライアングルZ」+「ファイアトルネード」=オーバーライド技「爆熱ストーム」で灰崎ごとゴール。倒れている灰崎が無意味にセクシー。
 明日人が立ち上がってショックを受けている。どれだけ灰崎に入れ込んで観戦してるんだ。ただの灰崎ファンじゃないか。
 灰崎はシュートの直撃を受けてもピンピンしている。生命力が強いな。鬼道に向かって勢いの強すぎるパス。フラストレーション溜まってます! という顔をしている。
 一方、小僧丸は豪炎寺のシュートが決まったことでウキウキ。プレーのいいところは全部豪炎寺のおかげ、それを否定されるとムキになる信者根性が素晴らしい。ちょっと引いている明日人と万作。そして明日人は灰崎を見つめる。
 プレー再開。
 星章DF陣は爆熱ストームを意識しすぎている。武方三兄弟の必殺シュート「トライアングルZ」は豪炎寺の前を通過し、ゴールに突き刺さる。あっけなく追加点。
 灰崎またもイライラ。ハーフタイムでつかみかかるが、鬼道は諭すだけ。いわく、なぜそこに置かれているのか理解しなければ勝利の手順を踏めない、今の灰崎では豪炎寺を頂点とするチームプレーには太刀打ちできない。が、頭に血が上った灰崎に納得できるはずもなく。ゴー・トゥ・ガイの気概がありすぎる灰崎だ。
 後半、灰崎は自制できず、「テメーのサッカーごっこに付き合ってられっかよ!と」ペナルティエリアを飛び出して自分でボールを運び始める。
 この展開に、万作は勝負を捨てたかと首を振り、明日人は呆気にとられ、小僧丸は予想できたという。小僧丸自身オフェンスを禁止されたらキレた過去があるからか。明日人は「今の灰崎はひとりで他の21人を敵にしているように見えるよ」という。そんな無茶が同年代相手に上手くいくわけがない。灰崎、折緒のパス要求も無視して突撃。静観する鬼道。
 木戸川はDF3枚で灰崎の侵入ルートを潰してから西垣の必殺技「スピニングカット」でボールを奪取。ほぼ選手に対する物理攻撃だがカット技。から豪炎寺のファイアトルネードにつなぐ。天野+DF3人でがら空きのゴールを死守。
 灰崎、フォローしてもらったのに感謝のカケラもない。鬼道の采配を煽る煽る。が、水神矢のまっとうなお説教を食らって、スン……と頭が冷える。この辺は単純な少年っぽい。なんなら犬。そして水神矢はぐいぐい引っ張るタイプのリーダーではないが、人情と地道な努力で人が付いてくるタイプのようだ。
 灰崎、頭が冷えたら状況が見えるようになる。木戸川オフェンスが機能しているとみるや、自分から飛び込み豪炎寺からボールを奪う。ここの脚の筋肉が良い。さらに、ディフェンスの穴を偉そうな言い方でだが指示。一瞬で成長を見せた。水神矢が必殺技「ゾーン・オブ・ペンタグラム」で狙いを外させる。エフェクトはきれいだけどどういう技なんだ。ポーズ的に属性違いのザ・ウォールか。
 灰崎は、寄ってくる鬼道に「これでいいんだろ」と、素直に従うのが癪という感じを含ませつつ言う。この辺の表情がよくできている。選手交代でやっと本来のポジションに戻る灰崎・天野。
 お着換えタイム。乳首などない。天野が毛深いのは頭だけだった。そして腕が灰崎より4倍くらい太い。
 灰崎はユニフォームを脱いだまま残り時間をチェック。鬼道の「ここからひっくり返すぞ。やれるな」に対し「受けて立ってやるよ!」の謎集中線。半裸でユニフォームをベンチに投げつける。なんだこの面白セクシー枠。はやく服を着ろ。
 観客席では、戦術の皇帝による連携の意義講座。明日人は「灰崎ならここから何かやるよ」とニコニコ。明日人はやけに灰崎に肩入れして見ているな。
 鬼道さんは木戸川に勝つため、灰崎を真のエースストライカーにしようとしていましたとさ。理解した灰崎、素直に頷きはしないがもうイライラしない。
 鬼道、「お前の闇はわかっている」など言い回しがポエティックだ。そういうキャラだっけ。トゥントゥク(せいしょうのすがた)?
 ともあれ鬼道の求めるところはあくまで「最高のサッカー」であり灰崎の目的は関係ない。敵の敵は味方のような説得。
 灰崎は折緒のボール要求にちゃんと応えるようになった。「ゴールの引き立て役くらいにはしてやるよ、凡人ども!」と口は悪いが、パスが繋がって星章が勢いづく。 灰崎の舌なめずりと「ノッてきたぜ!」でEDへ。


次回の感想 第7話「見え始める光」

前回の感想 第5話「星章学園の闇」


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