好きなものは好きだと言え

自戒を込めて好きな作品を好きだと言うためのブログ

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サブタイトル「世界よ その手をつなげ」
FFI決勝戦・後編&VSシャドウ・オブ・オリオン前編



 警報鳴り響くスタジアム。イリーナはこれを「始めたのよ、革命を」と言う。スコーリオが「そんなことは許されませんよ」と無駄を悟らせようとするが、イリーナは涼しい顔でスタジアム中に爆弾をしかけて選手と観客を丸ごと人質とったことを宣言する。テロリストと交渉しないのは基本。ということでスコーリオはイリーナの発言をハッタリだとはねつける。イリーナは「あら、そう?」とスマホを操作する。

OP

 わりとすごい状態の話なのに、アバンはあくまで抑えた調子。戦神軸はよく「もっとこってりやる方が王道だろうな」という場面で抑えた演出を持ってくるよね。
 スタジアムの屋根から爆発音、上がる黒煙。当然、真下にいる観客だけでなく、多くの観客が悲鳴をあげる。吊り下げられていた垂れ幕(?)も落下。実にはた迷惑だ。
 動揺する観客と選手たち。その中で、趙金雲は「これは何事ですか?」とかすっとぼけているが、絶対にイリーナの手口だとわかってるだろ。
 観客席に武装した男たちがなだれ込み、制圧。警棒とヘルメットで威圧感を出しまくっているため、さしもの夏未も何も言えない様子。今度はスタジアムの天井が閉じ始めた。ここ開閉式ドームだったのか。せり出す蓋状の天井から変なエネルギーのようなものが出て、一気に太陽光も照明も消え、暗くなる。続いて天井の照明だけがついて、フィールドだけを照らす。
 角間が「おっと! これはいったい何が起こっているのでしょう!? 私たち実況ブースのほうにもまだ情報が入っておりません!」と、あくまで試合中と同じテンションでしゃべり続ける。実況解説の鑑。隣が通常通りだからか、マクスターも眉根を寄せて不安そうではあるが、「スタジアムはただならぬ雰囲気となってしまっていますが……」とやはり実況解説を続ける。
 急に巨大なホログラムが出現。布がはためいている。たどった先には、フィールドの上空に君臨する巨大なイリーナの映像。悪役は一回倒されたあと巨大化して復活しなければいけないという特撮のお約束のような自己顕示欲丸出しの仕込みである。新条もこれくらい手際よく準備してから潜入してくれ。
 紀村記者が「こんなことができるのは魔女のしわざか」と言うが、イリーナの顔が思いっきり出ているのに魔女のしわざじゃなかったらなんだと言うんだ。
 巨大なイリーナはやたらと長い服をひらひらさせながら、「よく聞くがいい、荒んだ世界の住人たちよ」と口上を始める。お前が荒ませてるんだよ。喋るイリーナ像のミニバージョンが次々と増え、意味もなく観客を威圧していく。イリーナによると、ただFFI決勝戦を楽しみに来ただけの世界各国のサッカーファンを人質に国家規模の取引をしようというのだ。はた迷惑極まりない。
 気づいたらスコーリオたちは部屋のすみでお縄を頂戴している。メインの告発はインターポールに奪われ、画面上のイケメン度は士郎の方が断然上で、新条は何しに来たんだ。
 騒動に気づいて様子を見に来たのか、ベルナルドが潜入三人組の情けない姿に絶句する。イリーナはいつもの調子で「あらベルナルド、いま忙しいの」と軽くあしらう。ベルナルドは何も知らされていなかったようで、「いったいこれは何のマネです?」と遠くから母の背中に問いかける。が、笑うイリーナは交渉に夢中だ。
 「この中継を見ている全世界の首脳たちよ、お前たちが所有する全ての戦略兵器を私は把握している。世界平和協定の条約違反の証拠を公表されたくなければ、各国の提示する金額を指定する200の口座に振り込んでもらう」あ、普通にテロリストだ。口座の場所はケイマン諸島かな?
 趙金雲が視聴者に向けてイリーナの発言を噛み砕いてくれる。「これが魔女の本当の目的というわけですか。彼女は兵器を隠し持っている国を脅迫しているわけですね」
 良い子の杏奈は「これほどのことをお金のために?」と驚く。趙金雲が否定する。「おそらく真の目的は堕落した王を失墜させること」ここだけセリフの世界観がアレスのEDイラストみたいになっているが、そのまま続ける。「堕落した首脳たちをその地位から引きずりおろすつもりです」イリーナも十分に傲慢な堕落した女王だと思うが、同族嫌悪か?
 角間の実況がヒートアップ。「これは何かのサプライズイベントなのでしょうか!」警察や各方面に許可を取ってから決行するテロなんかないので、サプライズイベントといえばサプライズイベントだ。
 さすがにベルナルドも恐怖をおして母に苦言を呈する。「マーマ、世界を相手に取引などバカげている」一応ビジネスの最前線にいる男の忠告なのでたぶん聞いておいた方がいい。もちろんイリーナが耳を貸すはずはないが。と思ったらベルナルドの横をフロイがつかつかと通り抜け、恐れもせず声を上げる。「母さん! なぜこんなことを、どういうことなんだ?」フィールドからここまで走ってきたのか? やたら早い到着である。
 ベルナルドはフロイの肩をつかんで止めようとするが、フロイはなおも母を呼ぶ。しかし「おだまり」の一言で兄弟はすくんでしまう。イリーナは「いいわ。頃合いのようね。話してあげる。私の……いいえ、オリオンの本当の目的を」と偉そうに視聴者への解説を始める。オリオン、この一家のそれぞれに良いように扱われてる組織だな。各人の思想の方向性に統一感が無い。SPの手で扉が閉まり、暗転。
 イリーナの回想。新条とヴァレンティンだけのサッカー少年見物放浪かと思っていたら、イリーナも同行しての各国の貧しい子供たちの救済旅行だったらしい。てっきりヴァレンティンは嫁が嫌で気の合う男友達と子供のサッカーに逃げていたのかと誤解していた。といっても夫婦がメインのユニットなら、ますますなんで新条が同行してるんだ……。もっとも、ヴァレンティンと新条が子供たちと触れ合っている間、イリーナは車を降りようとはしないが。
 オリオンのチャリティグッズ販売らしい背景。「あの人には貧しい国を支援するという崇高な目的があった。でも私の興味はビジネスだった」ということはベルナルドのビジネスの才能は母親譲りか。イリーナのイメージの大樹が枝を伸ばしてく。「ひとつの国を訪れると、私はその国の財務状況を徹底的に調べた。より有利なビジネスを行うためにね」ガルシルドと気が合いそうだ。もっとも、このパラレルワールドでガルシルドが生きている保証はないが。
 ちなみに私がイナズマイレブン3の登場キャラクターで妙に好きなのはヘンクタッカーです。根は善人ないし小物でしかない大半の悪役選手と違って、雇い主かつマフィアの黒幕みたいなものだったガルシルドに恐らく手を下したシーンで感心した。別の雇い主を探すならそうすることによってガルシルドからの復讐を気にする必要がなくなり、かつ一強状態を崩して権力闘争を激化させて台頭してくる人物を雇い主としてピックアップした方がヘンクタッカーに有利だから。そのうえ円堂のサッカー教にも入信しなかった。ヘンクタッカーには裏社会でひとかどの人物になる器があるぞ。負の器だが。ほら、もし同じ「ジョゴ・ド・ビッショに甘さは一切なし」ってセリフを言わせたとしても、ロニージョにはマフィアに集金役をさせられる使いっ走りの悲哀が漂うけど、ヘンクタッカーには指を舐め舐め札びら数える側の気配があるじゃないか。オリオンの設定とも相性が良さそうだったからぜひイリーナの手下として登場して欲しかった。ヘンクタッカーはクセになるぞ。閑話休題。
 「政府システムのハッキングも通例になっていた。もちろんあの人に内緒でね」やはり顔がいいとハッカーとして優秀になっていくのだろうか。というか経済の実態見てのビジネスからずいぶん飛躍したな。何かきっかけでもあったのだろうか。「ところがある国を訪れたとき、恐ろしい事実を知ってしまったの」薄手のノートPC一つでホテルみたいなところから気軽にそんな情報にアクセスしているお前が一番恐ろしいわ。
 「その国はたくさんの貧しい国民を抱えながらも、兵器開発に巨額の資金を投入し、多くの国と名ばかりの平和条約を結んでいた。そして信じられないことに、多くの国がその国と同じ状況にあった」技術水準が多少低そうな貧しい国で儲けを出せる兵器開発ってなんだろう。今ならドローンによる無人兵器か? そしてカッとなっただけでデバイスを床に投げつけて破壊するイリーナ、若いころから細腕に似合わぬ腕力の持ち主である。
 若き日のイリーナが、ワイルドな背景に似合わぬいつもの格好で、ヴァレンティンの背中を見つめている。「あの人は世界に裏切られていたのよ」何かに憤っているイリーナだが、オリオンの思想を骨抜きにした人間が何を言っているのやら。
 砂ぼこりで切り替わる背景。家に戻ってきたようだ。何かを夫に訴えかけるイリーナ。「私たちが救った子供たちは、近い将来、兵士となって殺し合うのかもしれない。私はバカバカしく思えてきた。でもあの人の考えは違っていた」
 回想の中のヴァレンティンが言う。『イリーナ。私は世界を信じたい。世界はきっと変われる。信じようじゃないか』あまりのお人よしぶりに、イリーナは閉口してしまう。「私にはあの人が愚かな偽善者にしか見えなかった」当然夫婦仲は冷え、やがて別居。ベルナルドとフロイは出ていく母を見ているしかできなかった。妻が出ていってもヴァレンティンは信念を変えず、そのまま世を去った。
 イリーナの計画は夫の死と共に始まった。いわく「偽りに塗り固められた虚構の世界を破壊して理想郷を作ると決めた。そう、パーフェクトワールドをね」。お、おう。旦那の何がよくて結婚したのか定かでない人だが、なんというか、イリーナの中には確固たる哲学、なんらかの人生への美意識があって、それに適う部分は好きだったんだろうな。変人すぎてその哲学がどんなものなのか視聴者にはさっぱりわからないけれど。
 巨大なイリーナのホログラムが回転して絞られ、裾が膨らんでオーロラ色の空間が現れる。そこに人影がひとつ。歩いてくるのは、ユニフォームに身を包んだ人間。
 黒地にオリオンの刻印のマークという、見たことのないユニフォームに、明日人たちが警戒する。
 新登場チームの中央にいる、例の新キャラが自己紹介を始める。左端にはウラジミールがいるのでもう露骨にラスボスチームですという感じ。「我らはシャドウ・オブ・オリオン。オリオンの力を知らしめる者だ」遅れて登場してくるのは影山零治。無印キャラがぎょっとする。
 イリーナのホログラムがくるくる回る。「世界の結束が本物であるというのなら、ここでそれを証明してみせるがいい」え、金を振り込むかサッカーで勝つかの二択なの? 二択目があったの? イナズマジャパンは「彼らと戦えということか」「それが世界の結束を証明するということになるんでしょうか?」「なんなんだこの状況」と困惑。そりゃそうだ。
 ところで、超次元サッカーでノリが懐かしくなって『バトルアスリーテス大運動会(TV版)』をこの間再視聴したんだけど、イリーナってネリリクイーンのシリアスバージョンみたいなものだよね。ジェシーは小僧丸相当、アンナは弟死んでる世界の吹雪士郎、リンファは美少女にした趙金雲みたいなもんだった。ついでに無印二期のレーゼ初登場時、レーゼのキャラクターデザインにデジャヴを感じたけど、あれは脳のどこかでラーリを連想したんだろうな。あからさまに低くした女性声もあって私には同系統のキャラに見えた。
 ともかく、タツヤが「落ち着こう。ここは監督の指示を仰ぐべきだ」と冷静そのものな発言で皆の注意を監督に向ける。タツヤはいつも落ち着いているな。
 イリーナは「始めるわよ、真実を賭けた聖戦をね」と変人丸出しの宣言をし、さらに息子に向かって「あなたも参加したら?」と煽る。フロイは真剣な顔で「母さん、一つだけ教えて。母さんは父さんのために……?」と問う。「あんな偽善者ぶった老人のために誰が」答えるイリーナの表情はわからない。というか、この夫婦けっこう年が離れていたのか? ベルナルドはイリーナがいくつの時に生まれた息子なんだ。去っていくフロイと、フロイを追うベルナルド。
 一方、新オリオンチームのベンチでは、影山がやってくると、今まで座っていたメンバーが蜘蛛の子を散らすように逃げる。それを背景に、趙金雲の拡声器越しの声が響く。
 趙金雲は茶化しながらも、各国代表に向かって言う。「世界の平和を守るため、あなたたちには戦士として一肌脱いでもらいたいと思います。」観客が沸く。「これより、世界全チームから選抜する、世界代表メンバーを結成します。今から名前を呼ばれた人は、フィールドに出てきてくださ~い」ずいぶん贅沢なピックアップゲームだ。
 駆け込んでくるフロイ。いち早く手を挙げるのは明日人。「監督! 俺にやらせてください!」「僕も、自分の責任を果たしたい!」フロイに続き、次々志願する選手たち。これ、ゲームでは手を挙げたキャラは引き抜いてこの試合で使えるのかな?
 出そろったところで、趙金雲はみんなの勢いを少しばかり抑えにかかる。「皆さんのお気持ちはよ~くわかりました。しかしながら、ここは私が監督として、独断と、偏見によって、世界の転覆をたくらむテロリスト一派と戦う、世界代表メンバーを発表します!」激しく回転してポーズをつけると、さっそく発表。
 円堂守。稲森明日人。灰崎凌兵。野坂悠馬。豪炎寺修也。不動明王。不動が呼ばれたところで、風丸が嬉しげに声をかける。「不動、ケガは治ったのか?」「ああ。ギリギリ間に合ったな」最後に呼ばれるのは、鬼道有人。これがとびっきりの助っ人だった。沸く観客。出迎える旧雷門三人と不動。これほど遅くなった理由は「少し前に着いていて合流するはずだった。が、影山の入国を知り、極秘裏にヤツの動きを追っていたんだ」とのこと。影山が関わるからには、生半可なものではない。「ヤツの引き受けた依頼は、ヤツの興味を満たすほどに大きいものだった」
 ウラジミールが、ねちっこく影山の真意をはかる。「あなたがまさか、我々に手を貸すとは。イリーナ様の考えを支持なさるということですね」影山はストレートには応えない。「大河の流れはたったひとりの英雄によって変わる。このスタジアムに英雄を見に来たのだ」自分の計画のためというよりは物見遊山な様子。しかしウラジミールは、「確かに、イリーナ様は英雄と言えるかもしれませんね」と上司のヨイショに余念がない。

アイキャッチ

 明るい青のユニフォームへと着替えたオリオンへの対抗代表がずらり一列に並ぶ。左から、鬼道、アフロティ、不動、風丸、円堂、一星、豪炎寺、野坂、灰崎、明日人、フロイ、マリク、ルース、一之瀬、ハオ、アルトゥール、ペトロニオ、クラリオ。前線が……前線が多い! いやゲームでもこういう構成にしたけど!(シュート技とドリブル技持たせたFW・MFをスタメンの中盤までびっしり&ベンチ3枚ぶちこんで交代させまくってボールキープする戦術ばっかりやってた)それにしても本職DFが風丸ひとりってどうなんだ。フロイ、マリク、ルースはどこにでも置けるのと、ハオが融通利く選手なこと以外は守備に不安しかない。
 不安と言えば、趙金雲のネーミングセンス。即興で決めたチーム名は、せっかくハオが「オリオンに対抗するチームなわけですから、アルテミス……」と何か言いかけたのに「チョウキンウンズです」とゴリ押し。こいつ、テロ対抗チームを自分の売名に使いやがった! ツッコミせずにいられない常識人灰崎、虚空を見つめる野坂、目をつむって汗をかいて無視する一星・豪炎寺、ちょっと困った笑顔の円堂・明日人。フロイは頭を抱え、マリクがじっとりと睨み、ルースも変な汗が出ている。
 テロップが「チョウキンウンズ VS シャドウ・オブ・オリオン」と書かれ、残念ネーミングが正式採用されてしまった。こんなものでイリーナが動揺するはずもなく、サクサク聖戦の火ぶたが切って落とされる。ルールは特殊で、交代無制限のエキシビションマッチ。ゲーム無印みたいなものだ。
 角間は実況魂を炸裂させ、「突然の急展開に私も戸惑っております」と言いつつ、しっかり「ここからFFI決勝を中断し、登録名シャドウ・オブ・オリオンと、実質のFFI選抜オールスターチームともいえるチョウキンウンズの世紀の一戦となります!」と実況。なぜかチョウキンウンズのロゴもしっかり用意されている。明らかに弓矢をイメージしたデザイン、オリオンを射殺すアルテミスの矢にかけたチームだろうに、名前は趙金雲が持って行ってしまった。
 シャドウ・オブ・オリオン側は、キャプテンはFWのユリカ。ストライカーのラスボスは鉄板とは言え、女性選手のラスボスはシリーズで初めてか。黒幕も女性だったし、いろいろ試してきたな。
 チョウキンウンズ側のスタメンは、円堂をキャプテンに、ルース、マリク、風丸、ハオのDF陣、鬼道、明日人、野坂の中盤、前線はフロイとクラリオと豪炎寺だ。
 そうこうしている間にシャドウ・オブ・オリオンのデータも律義に実況席に送信されたため、試合実況が可能に。新条はイリーナのこの無駄な手際の良さを少しは学習してから潜入してくれ。
 TPの枯渇を気にしなくていいからか、豪炎寺は「クラリオ。最初から飛ばすぞ」とやる気に火をつける。もちろんクラリオの返答は「ついてこい!」だ。フロイも駆け上がる。しかし、この三人の侵入をシャドウ・オブ・オリオンは見逃す。
 さっそくシュートチャンス。クラリオがシュート技「ダイヤモンドエッジ」チョウキンウンズユニフォームバージョンを披露。すさまじい角度でゴールの隅を狙うシュートは、キーパー技すら使うことなくキックひとつで打ち返される。
 驚くチョウキンウンズ。その隙をつくようにユリカがボールに駆け寄る。「見せてやろう、オリオンの力を!」と空中のボールを前方に蹴りだし、それを自分で追って加速。風丸とハオがディフェンスに入る。影山が怪しい笑みで開始宣言。ユリカのイレブンバンドが鳴る。ユリカはイレブンバンドに目を落とすこともなく、委細承知とばかりつぶやく。「プレリュード」
 ユリカを警戒しすぎて、ワンパスで抜かれる風丸とハオ。ルースとマリクがカバーに入るが振り切られる。ボールは再びユリカへ。ユリカの左手が赤い電撃を放ち、すぐ横に渦巻く影の人型が出現する。ユリカがボールを蹴り上げると、わずかに遅れて人影も跳ぶ。一人と人影が反対に回転しながら同時にキック。新シュート技「オリオン・クロスバイパー」。赤いXラインから放たれる赤と黒の奔流。消える人影。
 正面切ってのシュートなので、対抗はもちろん円堂のキーパー技「ダイヤモンドハンド」。勢いを殺しきれず、ボールはネットに突き刺さる。
 0-1でオリオンリード。つくしが立ち上がり、杏奈が口を覆い、析谷が絶句するが、趙金雲は食えない笑顔。灰崎も思わず腰を浮かせている。円堂をライバルと認めているクラリオは、ダイヤモンドハンドが一撃で破られたことに衝撃を受けている。
 大の字で倒れた円堂のそばに、風丸がしゃがみ、声をかける。どうでもいいけど、風丸のかかとが浮いているので、足の柔軟性が低そうだ。円堂は相手を褒め、その実力の高さを認識しながらも、体を起こし「けどさ。かなわねぇヤツがいるってことは、まだまだ面白ぇことが続くってことじゃないのか?」とニカッと笑う。例によってやたらめったら前向きなサッカーバカである。鬼道とやりあった一星を仲間じゃないかの一言で受け入れた時と同様、風丸は絶句。
 一方、中盤勢は分析中。シャドウ・オブ・オリオンがオリオンに染まった特殊部隊であること、速度、当たりの強さ、テクニック、あらゆる能力がずば抜けていることを視聴者に説明してくれる。髪をかきあげていた灰崎は少し落ち着いたのか、どかりとベンチに座りこむ。
 試合再開。
 珍しく豪炎寺が指示。「落ち着いていくぞ」相手はクラリオ。ここは作中屈指の破壊的ストライカーのラインで実に楽しそう。一旦ボールを戻していくチョウキンウンズ。
 豪炎寺→クラリオ→フロイ→野坂。戦術の皇帝が腹黒くない良い笑顔。「鬼道さん、行きますよ」パスを受ける鬼道は、赤いマントをなびかぜつつ、状況を観察。リゲルと小競り合いを演じていた明日人が振り切ってフリーに。その足元にボールが飛んでくる。驚く明日人だが、すぐに適応し、前を行く野坂にパス。明日人は動きやすさに表情を明るくする。
 一星の解説。野坂と鬼道という屈指のゲームメーカーが共存しているおかげで、細やかなゲームメイクをフィールドの隅々まで行き渡らせている。滑らかなパスワークでシャドウ・オブ・オリオンの最深部へ到達。肩越しに見つめるユリカのアップ。
 鬼道から豪炎寺へのパス。もちろん豪炎寺が放つのは、自らサッカーにおける回答と呼んで憚らないシュート技「ラストリゾート」。迫るボールに、対抗すべきプロキオンは腕組みし、仁王立ちのままだ。風丸も「なぜ動かない」と驚きと不審の入り混じった表情。走ってくるのはユリカ。「コンチェルト」と言うや、ラストリゾートのエネルギーをまとったボールは急停止。真上へ飛んで行ってしまう。鬼道によれば「ゴール前に気流を仕掛けていただと?」。また風が酷使されてる。
 ユリカがシュート性のパスでベテルギウスを送り出す。ベテルギウスはハオのスライディングをかわし、ユリカも並走してくる。ハオと野坂はどちらのディフェンスにつくべきか迷ったか。見合っている瞬間にパスが通ってしまう。風丸が警告。「来るぞ!」すかさず明日人がユリカの進路に侵入。「やらせない!」
 ユリカが跳躍。空中を蹴って三回ジャンプ。スカイウォークのようだ。高い位置からボールにかかと落としを食らわせ、急角度のノーマルシュートを放つ。反応する円堂、手を伸ばす。しかし触れられなかった。
 0-2で点差が開く。
 オリオンベンチのウラジミールは得意げだ。「ユリカは頭脳と身体能力が両立した存在。指揮能力、個人技、いずれも他の追従を許さない。これは楽勝のようですね」この楽観的な見方を、画面を操作中の影山は不採用にする。
 イリーナはユリカがお気に入りのようだ。「オリオンの技術を結集して作り上げた兵器、感情を捨て、研ぎ澄まされた感覚で敵を粉砕する」と評し、勝利を確信する。
 ボールが外に出て、試合中断。チョウキンウンズは軒並み息が上がり、クラリオなどはひざをついている。「すごいね。特にキャプテンのあの子」と明日人が言えば、フロイが急に回想を挟んでくる。「ユリカ・ベオル。僕は昔の彼女を知っている」
 まだ弱虫で泣き虫でサッカーが下手な頃の年齢のフロイが、口元に人差し指を当てて、小さなユリカと一緒に急ぐ。ユリカは髪型こそ基本的に変わっていないが、黒いピンで前髪を留め、赤みの差した頬をして、穏やかな表情をしているため、今の彼女とはかなり雰囲気が異なっている。小さなフロイと小さなユリカは、フィールドを見下ろす場所で笑いあう。「前は優しくて平凡な女の子だった」フロイ、例によって例のごとく若干失礼な言葉のチョイスをする男である。平凡って。もうちょっと良い言い回しを考えろ。しかしこの回想を知って、野坂と明日人は痛ましいものを見るような表情に。「きっと変えられたんだ。母さんに。戦うことだけを植え付けられてきた、心を持たない戦士になってしまったんだ」
 再びフロイの少し前の時間の回想。オールスターチームに名乗りを上げるべく走るフロイの隣で、ベルナルドが警告。「奴らは戦うことだけを植え付けられた戦闘マシーンだ」
 野坂はシャドウ・オブ・オリオンがいかに厄介な相手であるかを認識したようだ。フロイは静かにこぼす。「負けるわけにはいかない」明日人は決意をこめて言う。「でもあいつらだって、人間なんだ」明日人の目には、ユリカはマシーンとは映っていないようだ。
 明日人の視線を知らないユリカは、「レクイエム」と宣告し、左手を挙げる。スピードとパスワークであっさりチョウキンウンズのゴール前にはりつき、再び放つシュート技「オリオン・クロスバイパー」。円堂は馬鹿の一つ覚えでキーパー技「ダイヤモンドハンド」を繰り出す。再び後逸。
 試合は0-3のオリオンリードで前半終了。
 クラリオは試合強度を上げ過ぎたか、額に冷却材を貼っている。「敵の力は絶対的だよ。打つ手なしか」とマリクはしおれ、豪炎寺も打開策は無さそうな顔つきで目を閉じている。「正真正銘の実力だ」雰囲気が悪い中、杏奈からしっかりボトルを受け取っている様子の野坂だけがリア充だ。もっとも、発言は充実どころではない。「こちらを遥かに凌駕する力です」この状況にあっては、さしもの円堂も表情が硬い。
 フィールドを見下ろすイリーナは、部屋の隅に縄を打った潜入者三人を並べたままニヤついている。
 選手交代。チョウキンウンズの後半の開始メンバーは、FWにフロイ、灰崎、豪炎寺、MFに鬼道、明日人、野坂、一星、DFにルース、マリク、ハオ、GKは円堂据え置きとする。フレッシュなのが灰崎と一星だけで大丈夫なのか。
 ユリカがさっそく攻め入る。立ちはだかるのは明日人。しかし、ユリカの起こした竜巻のような風にあおられて、くるくると回転しピッチに倒される。ユリカは8番の背中をボール越しに踏みつける。本格的に精神を折りに来たぞ! そして暗い目つきで「君たちはもう限界だ。無意味な抵抗はよせ」とどちらが軍や警察で、どちらがテロリストなのだかよくわからない威圧をする。さらに、立ち上がろうとする明日人を、今度は直に踏みつけて再び芝に這いつくばらせた。「立ち上がることは無意味だ。君たちが勝てる可能性はゼロなのだから」言葉を失うチョウキンウンズ。
 ユリカはボールごと明日人を蹴り飛ばし、悠然と歩いていく。が、この程度のラフプレーでめげる明日人ではない。「待てよ。いいか、よく聞け」と、ユリカに負けず劣らずの声音で反論しながら立ち上がってくる。「立ち上がることが無意味だと言うなら証明してやる」蹴られた左肩を痛めたか? ユリカは平静を装い「へえ、何をかな?」と目も合わせない。もちろん、背を向けられてあしらわれた程度で、明日人が言葉を止めることはない。こいつの自我は強いぞ。「可能性がゼロでも、立ち向かい続ければ、ゼロは1となり、2となり、100にだってなれるんだ!」明日人の力強い発言に、豪炎寺、フロイ、マリク、鬼道がハッとする。「挑戦し続けることで、可能性は無限になる!」
 まっさきに円堂が肯定。野坂が微笑み、灰崎も息だけで笑い、一星も瞳を輝かせて、明日人のもとに集まる。なおも無視し続けるユリカ。明日人の名を呼ぶ、チョウキンウンズに入れなかった選手たち。趙金雲が高笑いで「ここからが本番のようですね、ファイナルバトルの」と視聴者に話しかけてくる。
 ED入りのBGM開始。オリオンベンチの感じの悪い大人どもが「諦めの悪い奴らです」「いや、まだ奴らはアルテミスの矢を隠し持っている」と意味深な会話。
 ようやくユリカが明日人を振り向いたところで、EDへ。




次回の感想 第49話「フィールドの向こうに明日が来る」
前回の感想 第47話「最終決戦の日 それは始まった」へ

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サブタイトル「最終決戦の日 それは始まった」
FFI決勝戦

サントラ発売決定でとても嬉しい! 待っていた。しかも公式からのクリスマスプレゼントだ。去年はカバーアルバム2種だったから、今年はボリュームが増えに増えている。贅沢だ。



 アバンなし。
 氷浦、のりか、明日人、万作が、夜に買い出しから帰る途中のようだ。オリオンが何してくるかわからないんだから大人の一人くらい付き添ってやればいいのに。
 明日人が言う。「ついに明日は決勝だな」のりかの笑顔。「楽しみだね」万作と氷浦が続く。「新生ロシア代表か。必ず勝ってやる」「ばあちゃん、絶対に優勝して帰るからな」気負った雰囲気はない。ここだけは、いつも通り伊那国島の風が吹いている。
 明日人がちょっと浮かない顔。新条との会話を回想中だ。モノローグ「やっぱりあの人が俺の父ちゃんだった」。だから、明日人の父親になるの簡単すぎないか!? やたらアッサリと父親認定し、即座にそれは横に置いて「けど、今は明日の決勝に集中するんだ」と、やはりオリオンへの勧誘をさらっと断って帰ろうとした時と同じく、事態を切り分けて優先順位をはっきりつけている明日人。冷静だ。プロフェッショナルだ。いい方向にマセガキである。
 様子のおかしい明日人に、のりかが振り返る。万作たちには新条のことを話していないのか、「いまさら緊張してるのか?」とからかわれる。明日人は「そんなんじゃないって。あと1勝で世界のてっぺんに行けるんだ。絶対に優勝しような!」と、拳を握ってみんなを鼓舞する。うなずく幼馴染たち。
 夜間照明に煌々と照らされるピッチでは、円堂、風丸、豪炎寺が練習を終えたところ。明日の決勝に向けて簡単な作戦会議だ。鬼道がいれば心強かったと言う豪炎寺に、風丸は「どんな相手でも俺たちは最後まで全力で戦い抜く」と豪語。わりと風丸が終始メンタル強めのシーズンである。円堂は通常営業。

 夜が明けて、モスクワ・ルートベイメインスタジアム。背景の都合だろうけど、カザニのサッカーセンターからモスクワの会場に入るなら、前日に乗り込んでいてもいいのでは? 札幌-東京間くらいのフライト時間があるんだが。
 舞い上がる風船の大群と歓声。観客席には、スペイン、イタリア、ブラジル、中国、アメリカ、各国代表が代表ジャージで見に来ている。イタリアはサポーターでボロボロにされていたペトロニオやガブリエラ、ラケリトあたりも元気そうで何より。イタリアと中国のジャージが好み。どうせならフランス代表にも見に来ていて欲しかったところ。ナタンは元気かな。あとペクは生きてるかな。
 もちろんVIPルームにはイリーナ。腕組みして立っている。
 別の席では、久しぶりの紀村記者。オリオンの黒幕のリークされ、「魔女はまだ暗躍しているということか」と嫌な予感に表情を険しくする。まだ、という言い方からするに、イリーナは昔からある筋において良からぬ方向で有名人だったのだろうか。
 両チーム入場。前回はロシア側がサッカーをぶん投げてイリーナの命令に従った不完全燃焼な試合展開だったが、今回はどうか。角間は当然、日本を推している。
 剛陣、ヒロト、アツヤがスタメン入り。燃える剛陣。ロシアはフロイがキャプテンマークを巻いている。「日本の皆さん、決勝では正々堂々プレーしましょう」今回はユーリがGK。キーパーの筋肉の付き方ではないらしいが?
 明日人がにこやかに応じる。「ああ! 本当のサッカーで勝負するんだ」フロイが「みんな! ついに決勝だ!」と煽り、〆は円堂。「思いっきり、サッカーやろうぜ!」両チームともに拳を突き上げる。

OP

 ロシアのスタメンは、フロイが最前線。ルースとマリクがFW。前回対戦ではGKだったゴランはMFだが、イレブンライセンスのユニフォーム自体はキーパーのまま。ラスカーもいる。
 日本のスタメンは、ザ・ジェネラル要員の脇を明日人と氷浦で固め、万作、岩戸、タツヤで守る。
 杏奈は「ついにここまで来たんですね」と感慨深そう。その近くで、子文が趙金雲に話しかける。「決勝戦に呼んであるとびきりの助っ人って……」趙金雲の通話に相手は応じない。まだ合流しないことにわざとらしく焦る趙金雲。
 助っ人を待たずして、キックオフ。ロシアボールから。

 ところ変わって、オリオンの本部。薄暗い部屋でキーボードを叩く右手。吹雪士郎だ。ちゃんと潜入できていた。まだ捕まっていないとは有能だ。謎のブースでPCをいじる人物がもう一人、新条。士郎がハック成功。「やりましたよ、新条さん」と監視カメラの映像らしきものを見せる。パラレルワールドでの基山ヒロトといい、超次元サッカー界ではイケメンだと対ラスボス組織のハッキングスキルまでもが特訓・伏線なしに高くなるようだ。
 最上階に機密保管庫。「オリオンの不正の証拠はきっとここに隠されています」新条はその場所さえ知らない幹部なのか? かなり以前からオリオンの組織の中枢近くで働いているはずだが、どれだけイリーナに排除されてきたんだか。
 警報が鳴る。さすがに気付かれたようだ。逃走する二人。監視カメラに映っていたものと同じような道を走る。追いかけてくるのは、ロシア連邦警察。警備会社ではなく警察と直に手を組んでいるあたりズブズブなんだろうなという気持ちと、ロシアから見たら自国の組織が仕切ってる自国開催の国際大会の機密情報に外国人が不正アクセスしてるんだからまあねという気持ちと半々。ロシア代表が決勝に残ってるからそうとう経済効果あっただろうし。
 新条が場当たり的に身を隠した先で、扉が勝手に開く。その奥から「こちらへ」と男の声。警察は侵入者の足取りを見失う。
 新条と士郎が、通り過ぎる追跡者の足音に聞き耳を立てる。謎の声が言う。「間一髪でしたね」新条が誰何。関係者の顔くらい把握しておけ。そもそも侵入しておいて逃げるための仕込み一つない無計画さはどうなんだ。
 男は警察手帳を見せ、二人の逮捕を宣言するが、「なんてね。冗談です。私もサッカーを愛する者の一人でしてね」と協力を申し出る。警察とオリオンはズブズブで、男もそれを肯定する。「警察は誰も信用できない。だからこそ、あなた方との協力が不可欠なんです」男は保管庫への行き方を教えてくれるそうだ。RPGの情報提供者のごとく唐突に現れる便利キャラ。警察手帳持ちでそう簡単には追われないのだから、自分で機密を盗みに行けばいいのでは? うさんくさい男である。「力を合わせましょう。この世界に本当のサッカーを取り戻すために」
 唯一の光源はブラインド越しの光。そこに背を向けて立つ男のみならず、新条と士郎までシルエットになりかかっている。士郎の髪の色すらわかりにくい。視点が明日人でないシーンだからか、画面全体が非常に暗い。どれほど暗いかと言うと、明日人が薬を嗅がされて意識を失うシーンより暗い。たぶんこれは新条の視点、新条の世界の色調だ。

 試合に戻る。急に色彩豊かになった。ピッチは明日人の世界だ。
 FW三人で攻め込むロシア。DF陣を突破して、円堂との勝負だ。フロイはルースにパス。ルースがシュート技「イノセント・ドライブ」を放つ。彼はひとの技のコピーが上手いな。対抗は円堂のキーパー技「ダイヤモンドアーム」。伸びた腕がきっちりボールを握りこんで止める。
 円堂が「今度はこっちの番だ!」と氷浦にパス。そこから野坂を経由して、剛陣のシュート技「ファイアレモネード・ライジング」で速攻。
 対抗はユーリのキーパー技「ツーマンデ・ゴラン」。ゴランじゃなくてもつまめるのか! ご来光レモネードは単独シュートとしては強力な技だが、しっかり左手でキャッチ。角間の実況。「ロシアはポジションを入れ替えるだけではなく、他の選手の必殺技さえ自在に操るというのか!?」
 円堂が呵呵大笑。「やるじゃないかロシア。これでこそ決勝だ。なあ、みんな!」と大いにやる気を出す。
 ロシアのカウンター。ボールを持つフロイを、一星がマーク。いい意味で因縁のライバル同士、牽制し合う。一星がボールを奪い、ドリブル技「ブルー・スターダスト」でフロイを突破。フロイ、この技にやられるのは二回目だな。
 しかしフロイはすぐに一星の横についてくる。一星は野坂にパス。マリクがすかさずカット。マリク→ルース→フロイと、再びボールが一星と対峙するフロイの足元に戻ってくる。「前と同じようにはいかないよ」そういえば一星は前回も、ブルー・スターダストでフロイを抜いたあと、自分で運ばず野坂にパスしていた。パターンを読まれていたか。
 一星、対抗心を燃やして、フロイからボールを奪う。今度は明日人へパス。そこから野坂へボールが渡り、日本のMFが一丸となって攻めあがる。攻防が続く。互いにそう簡単にはシュートへ持ち込ませない。
 クラリオが満足そうだ。「両チームともに本来の実力が存分に発揮されている」
 アルトゥールが手に力を込める。「世界の頂点にふさわしい最高の試合だ」
 久しぶりの最初からクリーンな試合ということもあってか、ライバルチームたちも、日本ベンチも、明るい顔で試合にのめり込む。ただし、趙金雲を除いて。「確かにいい試合です。このまま終わってくれればですが」
 もちろんイリーナがこのまま楽しいサッカーをさせるはずもなく。隣にベルナルドすらいない一人きりの部屋で、怪しい微笑みを浮かべる。「さて、始めようかしら。本当のサッカーを」スマホをタップ。
 フロイの目が妙な色になり、足が止まる。光どころか焦点すら失われた青い単色の瞳。野坂の目ですらもうちょっと色味があるというのに。フロイのみならず、ロシア代表全員が立ち止まり、目が死んでいく。最も後方にいる円堂にすら、様子のおかしさが見て取れる。
 フロイの瞳が揺れる。直後、何の前動作もなく、フロイの蹴ったボールが一星の腹にめりこんだ。一星、仲間から腹にシュートを受けがちな男である。フロイは無言のまま、操られたようにドリブルを始める。止めに行く万作だが、その足首をヴィクトールとグエンナディのスパイクが狙う。転ぶ万作。フロイはそのまま前進し、タツヤの肩にシュートを見舞った。タツヤは回転して倒れる。
 ピッチの有様を見ているロシアのベンチメンバーも、同じ目になっているため、無反応だ。ロシアチームの監督もただ見ている。
 フロイがゴール前へ侵攻。シュート技「ダブルヘッド・イーグル」を放つ。いつもより声が低いのは洗脳状態を表しているのか。
 というかマリクの技をフロイも試合で使うのか。ひょっとしてロシア代表は、本物の規格品で構成されたパーフェクト・カスケイドですらやらなかった、4つの技プールが全員同じというチームなんだろうか。ゲームで当たる方が手強いチームかもしれない。(シュート2、キーパー1、あと一枠がもしドリブルかブロック持ってる選手だらけだったらバンバン技打たないと抜けないからTP管理が面倒)
 対抗は円堂のキーパー技「ダイヤモンドハンド」、だが威力に持って行かれゴールを許す。
 ロシア側が急にラフプレーを始めたことで、FWたちが憤る。明日人がオリオンのしわざかと疑う。イリーナの支配は次男にまで及んでいた。

アイキャッチ

 新城と士郎が、金髪の男に先導されて通路をのんびりと歩いている。金髪の男が「こちらです」と開けた扉は、機密保管庫の周囲に映っていたタイプではない。データどころか、待ち構えていた警察が数で威圧しながら逮捕を宣言する。
 金髪の男が言う。「お話しましたよね。私はただサッカーを愛する者の一人です。オリオンのサッカーを、心からね」新条が悔しそうにしているが、潜入先で会ったばかりの敵対組織の人物を信用するんじゃない。無事に帰る気があるなら自力であと2~3人仕込め。
 警察の足元に、発煙筒が転がってくる。たちまち視界がホワイトアウト。金髪の男を背後から一撃で伸す影。通路に脱出してみると、罠にかかった二人を助けたのは、スコーリオだった。
 彼の正体は、いわく「あるときはイナズマジャパンの現地ガイド、またあるときはインターポールの捜査官」。ただし口調はいつもどおり。
 オリオンの応援がやってくるが、スコーリオが呼ぶと、スーツに身を包んだナターシャとメラーニアが背後に出現。ナターシャのスーツが可愛い。そしてお店のお姉さんにしては無駄に優秀かつフットワークが軽いと思ったらやっぱり趙金雲と組んでた。二人は「ここは食い止めます」「お二人は早くデータを」と、普通の口調だ。
 あの茶番の数々は芝居だったようだ。特にスコーリオ。周囲の空気の冷えっぷりのわりに本人たちがやけにノリノリだったので、『本当は兄妹でコメディアンを目指していたけどまったくウケず、失意のうちにインターポールに就職したけど隙あらば寸劇を始めて笑いを取ろうとする』みたいな脳内設定ができてしまう。
 捜査官たちが警備員をちぎっては投げちぎっては投げしている間に、士郎と新条が先を急ぐ。士郎が先行しているのは現役だからか、それとも新条はたいして早く走れないのか。

 試合では、フロイたちのラフプレーが続く。一星は顔面にモロにボールをくらい、口と鼻を手で抑えるが、すぐにフロイを止めようと追いかけ、声を上げる。フロイの頬に汗。自我が完全に消えたわけではないようだ。
 ノーマルシュートが円堂を襲う。キャッチ。フロイは一星を一顧だにせずポジションに戻る。
 野坂が一星に声をかけると、一星は「フロイは苦しんでいます」と言う。剛陣と明日人もやってきて作戦会議。一星によれば「本当のサッカーがしたい。心ではそう思っているのに、体がいうことをきかないんだと思います」。アレスの頃の、杏奈ちゃんが野坂からの電波を受信していたとしか思えない言動を思いだした。謎ツーカー。
 析谷が催眠暗示の可能性を指摘。これが誘拐されていた時に明日人が受けそうになった洗脳処置か? 替え玉のルースが見事にかかっているが、新条の手駒の管理雑すぎないか。
 ロシアチーム全員の暗示のトリガーを同時に引く方法については、野坂がイレブンバンドに表示されるキーワードを予想する。一星が否定。洗脳が始まった時、フロイたちの視線はイレブンバンドには向かっていなかった。一星が何かを思い付いた。
 試合再開。円堂からのパスを一星が受ける。おそらくわざとボールを奪わせたことで、フロイがドリブルであがっていく。フロイに追いつく一星、フロイの真横で大声をあげる。動きの止まるフロイ。ヒロトと剛陣が怪訝な顔をする。「急になんだ?」
 だが、謎のムーブとは裏腹に、フロイの目に光が戻った。しかしすぐ暗示下に入ってしまう。それでも一星は暗示の種を確信したようだ。「音です! ロシアチームのイレブンバンドから何らかの音が出ているのかもしれません」相変わらず高性能なイレブンバンドである。
 剛陣と岩戸は「え?」「ゴス……何も聞こえないでゴス」と納得いかない様子。しかしベンチの析谷は、「音というのは聞こえる音だけがすべてじゃない」と言いだし、「人間の耳では聞き取れない超低周波音。それが人間の潜在意識に影響を与えることもある」と解説。以前も経絡秘孔とかいう超次元設定を冷静に解説してくれたがそういうポジションなのか。
 あげく、析谷はとうとつに「イレブンバンドをハッキングする! その音さえ断ち切れば」と言いだす。いくら便利キャラだからってなにも日本代表のハッカーまで担当しなくても。というかイレブンバンドはハッキングできるようなものなのか。日本のイレブンバンドを通した作戦はオリオンに筒抜けなんじゃないのか?
 イリーナは両腕ともひじかけに置いたかっこうで、「そろそろ気づく頃ね」と独り言。背景が回るレコードに変わる。かかっているのはクラシックの定番曲だ。「私の支配からは誰も逃れられない」
 フロイから一星、マリクから明日人、ルースから野坂へのラフプレー。
 いつでもやる気に満ちている剛陣が、張り切ってルースの耳元で大声を上げる。ルースは意識を取り戻しそうになるが、洗脳が解けない。手ごたえがなかったため、剛陣は息が続く限り叫ぶ。ルースは無反応。試合時間いっぱい大声をあげ続けながらプレーするのは無謀だ。
 ピッチで打つ手がなくなり始めたところで、析谷が何かのデータを引き当てた。かかっているBGMだ。杏奈が解説。「カルメンというオペラの中で歌われている、ハバネラという曲ですね」析谷のPCから変な電子音も鳴っているというのに、すぐさま曲名と元ネタが歌付きであることを思い出す杏奈ちゃん、さすがお嬢様である。
 イリーナとカルメンなんて正反対のキャラだが(かたやロシアの大金持ち、かたやスペインのジプシー。かたや男たちを金と拳で支配し、かたやそでにした男に刺し殺される)、曲のチョイスにどんな理由があったのだろう。自由気ままな女だからか?
 析谷の介入と共にBGMが消失。しかしルース達の目に光は無く、自我を取り戻す気配すらない。趙金雲いわく「どうやら魔女の方が一枚上手だったようですね」。
 「一度かかった催眠暗示は簡単には解けない。あの子たちの頭の中で、悪魔の調べは流れ続けるのよ」と、イリーナは横柄に座り込んだままBGMを復活させてくるが、そんな物騒なものを実の息子にかけるな。貧民の子だろうが自分の子だろうが分け隔てなく粗末に扱う感じの悪い大人である。
 ルースのシュートが明日人の顔を襲う。フロイのシュートが一星の腹に。ザ・エクスプロージョンを食らってもピンピンしているくらい丈夫だから、すぐ立ち上がってこれるかと思いきや、連続で食らい続けているせいか、一星は仰向けに伸びたままフロイの進攻を見送ってしまう。
 ゴールを守るのは円堂のみ。フロイのノーマルシュートを、円堂がパンチングで弾くが、よどみなくマリクがノーマルシュートに繋げてくる。バランスを崩して後ろに倒れる円堂。さらにルースのノーマルシュートが円堂の顔面を直撃。さっきも明日人のあごにヒットさせていたが、ルースのシュートはいちいち無駄に狙いが正確だ。
 美しいクラシックの名曲をBGMにボコボコにされる主人公勢という構図がプリンセスチュチュをほうふつとさせる。花のワルツをバックにカラスの集団に小突き回されるあひるちゃんのシーンには最初笑ってしまった。
 円堂は倒れながらも両腕でボールを抱え込み、ゴールを死守。しかし立ち上がれない。イリーナは「どうやら終わりのようね」と嬉しそう。フロイたちはしっかり洗脳状態。
 円堂、かすれた笑い声をこぼし、「けっこう痛ぇな」とつぶやきながら、なんとか立ち上がる。闘志は折れていない。「けど、この痛みはあいつらの心の叫びだ。ぜったい救ってやるからな!」
 フロイたちの反応はない。が、円堂はますます力を籠めて言う。「言葉にならない気持ちを受け止めるのが、仲間ってもんだ」
 立ち上がる明日人とヒロトが、ザ・ジェネラル発動時のような青いオーラをまとっている。ヒロトの「くたばってたまるかよ」がなかなかにドスがきいている。次々とイナズマジャパンが青いオーラで復活。勝利を求めるアツヤ、戦い続けようとする野坂、負けまいとする剛陣、本当のサッカーを宣言する氷浦。一星もフロイを呼びながら体を起こす。
 円堂が大きく息を吸って叫ぶ。「サッカーやろうぜ!」緑の波紋が広がっていく。エコーによって繰り返される円堂のサッカー愛。ものすごく驚異の侵略者編。この能力、円堂固有の最終戦でのみ使えるスキルなんだろうか。
 フロイたちはわずかに反応する。円堂のエコーが終わったあと、微動だにしない。だが一星が近づく頃には正気を取り戻し、本来の顔つきに戻った。
 フロイは「僕としたことが、こんな罠にかかっていたなんて。すまない」というが、ロシア代表が全員オリオンであることに気づかなかった鈍感さを思えばとくに疑問でもない。
 ルースが「試合を乱してすまなかった」と明日人と同じ声帯にしては渋い声で謝り、マリクは「今度こそ本当のサッカーをしよう」とサッカー愛に入信。もちろん受け入れる明日人。
 イリーナの手が震える。思わず立ち上がり、眉間に力をこめ、イリーナの支配から逃れた子供たちに険しい表情をする。
 試合は仕切り直し。
 ルース→マリク→フロイとボールが動き、フロイがシュート技「ダブルヘッド・イーグル」を放つ。対抗は円堂のキーパー技「ダイヤモンドハンド」。白煙を上げて止まるボール。円堂がライバルに声をかける。「ナイスシュートだったぞ!」
 日本のカウンター。明日人→一星→剛陣から、シュート技「ファイアレモネード・ライジング」がロシアゴールを襲う。対抗はユーリのキーパー技「ツーマンデ・ゴラン」。しかし摘まみ切れず、得点を許す。
 1-1の同点。剛陣が大はしゃぎ。
 観客席の影の中で、新キャラがじっと見ている。ルースの私服と似たような格好だ。お前さんもスラブ・スクワットで観戦するかい? 甲虫がとまっているが如き瞳だけどどうしてこのデザインにしたんだろう。
 イリーナの背後で扉が開く。許しも得ずに入ってきたのは、新条、士郎、スコーリオの潜入チームだ。新条は勝利を確信してか駆け引きなのか「そこまでだ。オリオンの不正は我々が暴いた。最重要機密である退会計画のファイル、そこに真実が記されていた」と宣言。
 「貴女の本当の目的は、サッカービジネスによる金儲けなどという生ぬるいものではない」ED入りの音楽が来た。イリーナは薄笑いを浮かべて「そう。あれを見てしまったのね」と、スマホを操作。何かしでかすつもりだ。
 会場に響き渡るアラート音。訝しむ観客。BGMと混ざって非常にやかましい。ピッチ上の選手たちもが呆気にとられながら、EDへ。



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